研究計画に述べたように、昨年度に得られた成果を踏まえ、ディラック電子系のゼロモードのランダムネスに対する安定性とカイラル対称性の関係についてさらに研究を進めた。 まず、昨年までの2層グラフェンにおける結果を踏まえ、3層グラフェンの場合にゼロモードランダウ準位の安定性をABAおよびABC積層について調べた。その結果、カイラル対称性が保存されていれば、3重縮退したゼロモードのランダウ準位がすべてデルタ関数型の異常性を示すことがわかった。また、様々な層間ホッピングの影響についても調べ、カイラル対称性を壊すような層間ホッピングによってデルタ関数的な異常性が抑制される傾向にあることも示すことができた。 一方、光学格子系で実現が期待されている2つのディラック・コーンのエネルギー縮退が解けた場合の一般化されたカイラル対称性の効果についても調べた。その結果、ディラック・コーンが傾いていて、通常のカイラル対称性が壊れている場合でも、一般化されたカイラル対称性が保存していれば、ゼロモードのランダウ準位が短距離相関しかもたないランダムネスに対してもデルタ関数型の異常性を示すことを示した。これは、エネルギー縮退が解けることにより、2つのディラック・コーン間の散乱が抑制されるためだと解釈でき、光学格子系ではランダムネスがなめらかか否かにかかわらず、一般化されたカイラル対称性さえ保存していれば、デルタ関数型の異常性が幅広い系での観測できる可能性を示唆している。 さらに、ケクレ型ボンド秩序がある場合のトポロジカルな欠陥近傍の局所状態密度をKernel Polynomial 法を用いて調べた。その結果、欠陥近傍に局在したゼロモード準位が存在することが確認でき、また、その状態がカイラル対称性を保存するようなランダムネスに対して強い安定性を示すことがわかった。
|