研究概要 |
平成22年度までに行った基礎的研究により、強磁場下の混合原子価CeおよびYb化合物に対して、L_<2,3>端X線吸収スペクトル(XAS)の磁気円二色性(XMCD)を計算する理論の枠組みを構築することができた。平成23年度は、この理論を活用して、具体的に最近の実験データを解析した。硬X線領域では、40Tまでのパルス磁場を用いてYbInCu_4のYbL_<2,3>端XASとXMCDの測定がおこなわれているが、実験データを理論解析してその結果を出版した。ここでは、磁場誘起価数転移を不純物アンダーソン模型に反映させる新しい方法、基底状態とXMCDの相関、4f5d交換相互作用の効果、結晶場効果など、今後この方面の研究の指導原理となる成果を得た。その後、軟X線領域でも新しい実験技術が開発され、EuNi_2(Si_<0.18>Ge_<0.82>)_2のEu M_<4,5>端のXASとXMCDがパルス磁場下で観測されたので、実験研究者と密接に協力してその理論解析を進めた。この物質に対しては、既に硬X線によるEuのL_<2,3>端XASとXMCDが観測されていたが、実験結果の解釈に大きな未解決の課題が残されていた。M_<4,5>端XMCDは、L_<2,3>端XMCDに比べてより直接にEuの4f状態を反映すること、総和則の適用によって磁気モーメントの決定ができることなどの利点があり、実験と理論の両面からこの物質の価数と磁化に対する新しい事実を明らかにすることができた。ここでも、上記の新しい理論の枠組みの応用が成果をあげた。また同時に、硬X線実験結果の解釈に対する課題を解決する手がかりも得る事ができた。これらの研究と平行して、本研究課題のもう一つのテーマである共鳴発光分光の理論研究も積極的に進めた。混合原子価希土類化合物の共鳴X線散乱における低エネルギー励起の理論、CeFe_2の共鳴発光の理論などを推進し、強磁場下の混合原子価化合物に対してこれらの理論を適用するための準備を整えることができた。
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