今年度は主に以下のことを行った。まず、氷の水素自由度を扱った現象論モデル(KKYモデル)におけるモンテカルロ法のプログラムの高速化。双極子相互作用が長距離力であるため1自由度の変位ですら原理的には系全体に影響を及ぼす。そこで、なるべく同じ計算を避けるようにアルゴリズムを見直し、ある程度の高速化を達成し、数千モンテカルロステップ程度のシミュレーションを現実的なCPU資源下で行えるようになった。次に、16種類の準安定構造間のエナジェティックスの解明を行った。その結果、cmc21構造が必ずしも最安定にならず、それとは異なる構造が最安定になることが分かった。なお、これは従来の現象論モデル(COMPASSモデルやSPCモデル)と定性的に一致しており、一方、DFT計算の結果とは異なる。さらに、本系に反電場の効果を加えた定式化を行い、その効果の上記エナジェティックスに与える影響を調べた。その結果、系の形状が球、もしくは、平板の場合、上記エナジェティックスのエネルギースケールよりはるかに大きなエネルギーの変動が起こり、全体が大幅に組み替えになることが分かった。特に重要な点は強誘電状態が最安定になる可能性がもはや完全になくなると言うことである。唯一の例外は、系の形状が細線の場合であり、その場合は反電場効果が実質無いので、可能性としては残る。 以上まとめると、現モデルはかなり洗練された最新のモデルではあるが必ずしもDFT計算の結果を再現しないという意味で問題を残す。ただし、反電場の影響はそういった差異よりもはるかに大きいのでその意味では今回の結果、すなわち、球もしくは平板の場合は強誘電状態は最安定にならない、は意味を持つ。一方、細線の場合は、DFT計算の結果を優先させるなら強誘電状態の可能性を残す。実際の系では、細線的な核形成が起こり、それが束になった形の構造が実現しているのかも知れない。
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