本研究では、フォノン分散関係を調べる手段として定着してきたX線非弾性散乱において、フォノン以外の低エネルギー励起を観測する手段としての新たな可能性を探るとともに、フォノンと低エネルギーの電子励起の干渉によって生じる新奇な電子状態の解明を目指して研究を進めてきた。本年度は、結晶場励起などとフォノンの干渉現象が報告されているYbB_<12>や結晶場励起の温度変化からその効果が期待されるPrRu_4P_<12>に対してX線非弾性散乱実験を行なった。対象とした2つの化合物のX線非弾性散乱スペクトルの温度依存性について調べ、フォノンと結晶場励起等の電子零期との干渉現象の観測を試みた。PrRu_4P_<12>では、結晶場励起スペクトルが温度変化をすることが知られている絶縁体相を中心にX線非弾性散乱の温度変化を調べ、YbB_<12>では以前の中性子散乱で異常な温度変化が観測されている温度領域でのスペクトルの変化を調べた。しかしながら、得られた両者のX線非弾性散乱スペクトルは非調和振動や構造相転移に伴う温度変化以外に期待されたフォノンと他の低エネルギー電子励起との干渉効果によるフォノン・スペクトルの変化を観測することはできなかった。その一方で、本研究開始直後に発表された低エネルギー光学フォノンと結晶場励起の干渉に関する理論の検証を行なうべく、理論で提唱されている別の系においてX線非弾性散乱を用いて検証するための試料の調達などの準備を開始した。
|