研究課題
本年度は、強磁性絶縁体と非磁性金属からなる接合の電極間に温度差がある場合のスピン依存伝導の現象論的定式化を行った。強磁性絶縁体の温度(マグノン温度)T_Fが非磁性金属の温度(電子温度)T_Nよりも高い場合は、強磁性絶縁体中に熱的に励起されるマグノンの数はT_Nで期待される数よりも相対的に多くなり、過剰に蓄積された非平衡マグノンとして振舞う。このマグノン蓄積は磁化の縮みに対応し、これを補償(マグノンを減少)する方向に、非磁性金属から強磁性絶縁体へスピン流が流れる。逆に、強磁性絶縁体の温度T_Fが非磁性金属の温度へより低い場合は逆向きのスピン流が流れる。このような温度差により生じるスピン流は各電極(部分系)のスピンの時空相関関数により記述される。これら部分系のスピン相関関数は、揺動散逸定理によって、仮想揺らぎ磁場に応答する動的帯磁率の虚部と関係づけられ、その比例係数として現れるポーズ分布はそれぞれ温度T_F、T_Nによって支配される。これにより、非磁性金属と強磁性絶縁体の接合間を流れるスピン流の大きさは、それぞれの温度で決まるボーズ分布の差(室温ではT_F-T_N)に比例することが分かった。強磁性絶縁体膜に沿って温度勾配をつけると、高温側から低温側へマグノン流が生じ、低温側では正のマグノン蓄積が生じ、高温側では負のマグノン蓄積が生じる。このようなマグノン蓄積の分布に対応するマグノンの有効温度は、低温側では設定温度より高く、高温側では低くなる。その結果、強磁性絶縁体の低温側に非磁性金属線を取付けると、T_F>T_Nとなりスピン流は非磁性金属から強磁性絶縁体へ流れる。他方、高温側に非磁性金属線を付けると、T_F<T_Nとなり強磁性絶縁体から非磁性金属へスピン流が流れる。これらの結果は、強磁性絶縁体を用いたスピン・ゼーベック効果の実験結果をよく説明する。また、上記の結果は、数値シミュレーションにより再現された。
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