ジグザク鎖反強磁性体MnWO4はIDM型と思われる磁性由来の強誘電性を示す。磁化容易軸(x軸)に磁場を加えると強誘電相が中間相を挟んで2つ現れるが、2つの相の分極は常に逆向きを示し、一方の状態は他方の状態と密接に関係している。他の磁場方向に関する情報も含め高磁場側の系の振る舞いについてはこれまで調べられていなかった。また、y軸方向に磁場を加えた場合、B||x軸と類似の相図が見られる。特にB||y軸については磁場により分極の向きがb軸からa軸にスイッチする現象が報告されていていたが、この磁場誘起の強誘電相が低温高磁場まで存在しておりB||x軸において分極の逆転する部分と領域が良く似ていることが判った。両方の相図の間を埋めるためにx軸とy軸の中間方向に磁場を加え詳細な相図を作成したところB||x軸で見られた高磁場の分極逆転相とB||y軸でみられた高磁場の分極スイッチ相が連続的に繋がっている可能性が強くなってきた。これによりこれまで別々に考えていた磁場誘起の強誘電相が実は同じ起源であることが判った。またB||x軸でみられた分極の逆転はクロスオーバーではなく相転移である可能性も高まった。更に、磁場の回転に対し高磁場では分極の向きが回転するのに対し低磁場磁場では分極が回転しないのはなぜかという疑問が新たに生まれ今後の課題が生じた。そこで今年度は、B||x軸のオーバーか相転移問題になっている低磁場部分について磁化の精密測定を行った。その結果磁化に不連続が見られ、この部分が相転移であることが明らかになった。併せて、B||x軸において予想されるスピン構造の磁場変化を元にIDM機構を考慮し、分極の変化を首尾よく説明することが出来た。この内容は本年度、Journal of Physical Society of Japan誌に公開された。
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