量子カゴメ反強磁性体の量子相転移近傍のスピン液体状態について調べる目的で、基底状態がスピン液体状態であり量子相転移近傍にあると考えられているHerbertsmithite(ZnCu_3(OH)_6Cl_2)の圧力下の帯磁率測定を行った。測定は、水熱合成された粉末試料に対してSQUID磁束計と専用設計されたクランプ型圧力セルとダフニオイルを用いて静水圧を印加して、室温から最低温度1.8Kまでの温度範囲で行った。圧力はSnの超伝導転移温度の圧力依存性から更正を行い、印加圧力は常圧から最大7.9kbarの範囲で測定を行った。Herbertsmithiteの常圧での帯磁率の温度依存性は、Curie-Weiss則によく沿っており、200K以上の温度領域におけるフィッティングからWeiss温度θ=-300Kと見積もられた。これにより交換相互作用の大きさJ=170Kと見積もられる。一方、圧力下の帯磁率の温度依存性は、常圧によるものと完全に一致し、7.9kbarという高圧下においても結晶構造の変化がなく、格子の歪みによる交換相互作用の不均一などによる基底状態の反強磁性長距離秩序化は観測されなかった。この理由の一つとして結晶構造が強固で、超交換相互作用を生み出しているCu-Cl-Cuのボンディングの角度の変化が微小であると考えられる。また、測定最低温度1.8Kでは基底状態を観測するのには温度が高すぎる可能性も考えられる。今年度の研究で、反強磁性長距離秩序相は温度1.8K、圧力7.9kbarの範囲では存在せず、Herbertsmithiteでは広範囲でスピン液体相が実現していることが明らかになった。今後、より高圧の測定を行うことと、同じくスピン液体状態が基底状態と見られWeiss温度が小さいと見積もられているVolborthite、Vesignieiteについて測定を広げスピン液体-Neel相の量子相転移の検証を行う。
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