研究概要 |
量子カゴメ反強磁性体の量子相転移近傍のスピン液体状態について調べる目的で,基底状態がスピン液体状態であり量子相転移近傍にあると考えられているHerbertsmithite(ZnCu_3(OH)_6Cl_2)の圧力下の帯磁率測定を今年も引き続き行っている。昨年度までに,印加圧力が常圧から最大7.9kbarの範囲で測定を行っていた。その範囲では,圧力下の帯磁率の温度依存性は常圧によるものと完全に一致しており,高圧下で結晶構造の変化がなく,結晶の対称性や交換相互作用あるいは臨相互作用の変化が極めて小さいか,あるいは全くないことが測定から得られている。今年度はこれに対応するべく10kbarの高圧セルの準備を行い測定を行ったが顕著な違いを得るには至っていない。今年度のこの研究によってHerbertsmithiteでは反強磁性長距離秩序相は温度1.8K,圧力10kbarの範囲では存在せず,広範囲でスピン液体相が実現していることが明らかになった。 そこで,当初の予定していた通りには進まなかったときの研究方針通りに,同じくS=1/2量子カゴメ反強磁性体で,スピン液体状態が基底状態と見られていて,Weiss温度が小さいと見積もられているVolborthite(Cu_3V_2O_7(OH)_2・2H_2O)について測定の範囲を広げて,圧力下の帯磁率測定を行った。Volborthiteの圧力下帯磁率測定では高圧下の低温において大きな変化が出現した。現在これらの結果について追試を行う準備を進めているとともに関係研究者の最新の測定結果と照らし合わせて基底状態について検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の対象物質であるHerbertsmithiteでは,高精度な帯磁率測定が可能なSQUID磁束計を用いた測定と組み合わせることが可能なクランプピストン型圧力セルで到達できる到達圧力を引き上げながらも量子相転移をおこすことができなかった。これは現在世界最高精度最高圧力の測定であり,圧力下相図の下限を決めることができたことになる。一方相互作用が小さいと見られているVolborthiteの圧力下の帯磁率測定は帯磁率の変化が見られているので,他の測定結果と合わせて解析することにより研究予定年度内に研究目的を達成できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めているVolborthiteでは相互作用が小さいので,より低温の測定が必要とされており,現在の測定装置では到達最低温度が不足している問題がある。しかしながら,高圧セルはHerbertsmithiteの測定の際より高圧化することに成功しているので,圧力対温度の関係で量子相転移近傍でのパラメータ変化に対応できるものと考えている。 また,最近Volborthiteでは,試料の純良化,微小ながら単結晶の作成に成功しており,より物性パラメーターの決定に有利な状況が生まれつつある。これらを活用すれば研究の飛躍的発展が期待される。
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