本研究は,SQUID磁束計を用いた磁化検出型の圧力下ESR(SQUID-ESR)測定技術の開発と、それを用いたイジング性磁気強誘電体Ca3CoMnO6の特異な磁気構造の安定性の起源解明を目的とする。SQUID-ESR測定技術の開発に関しては、常圧下で測定手法を確立し、それを踏まえ、専用の圧力セルを開発し同手法を圧力下に拡張することに成功した。具体的には、CuBe製のピストンシリンダー型圧力セルを作製し(外径、内径はそれぞれ8.7 mm、2.7 mm、シリンダー長は42 mm)、NiSnCl6・6H2O(磁性イオンNi2+、S = 1)という物質について1.5 GPaまでの圧力下、80 ~ 130 GHzの周波数範囲でSQUID-ESRに成功した。これは磁化検出型のESRとしては世界で初めての圧力下における測定である。本手法では、標準的な圧力較正方法であるスズの超伝導転移温度の圧力依存性を利用した較正方法が利用でき、従来の圧力下ESRに比べ精密に圧力較正が可能である。最高感度としてはESR標準物質であるDPPHに対して、圧力セルを用いない測定では10e+13 spins/G、セルを用いた圧力下での測定では10e+15 spins/G(4 K、105 GHz)を実現した。常圧下では一次元Heisenberg型反強磁性体Cu(C4H4N2)(NO3)2に対して、ESR遷移が誘起する励起状態の再配列に起因する特異なESR信号の振る舞いを観測した。またCa3CoMnO6に関しては、常圧下に関しては、16 Kの転移温度よりも低温で磁気秩序に伴う集団励起と考えられるESR信号を観測した。同ESRは大きな印加磁場方向依存性を示し、容易面型に近い反強磁性共鳴モードによる反強磁性共鳴と考えられた。一方圧力下では、上記感度はその観測には未だ不十分であり更なる感度向上が必要であることが分かった。
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