研究課題
平成22年度は相互作用するスピン・ダイマー系KCuCl_3の低温高圧下での光散乱測定を中心として、スピン・マルチプレット系の研究を行いました。その結果、圧力誘起量子臨界点で起こる系の磁気的な状態の変化に対応する異常を観測する事ができました。臨界圧力以上での圧力誘起量子相では、低温で磁気励起に対応するエネルギーに、光散乱ピークが観測されます。そのエネルギー・シフトは他の磁気測定やボンド演算子理論の予言と矛盾の無い圧力依存性を持ちます。ピークの半値幅、すなわち磁気励起の寿命の逆数は、磁気励起のエネルギーに比例します。これは、磁気励起の三次の非線形性に由来するものと解析しました。圧力誘起量子相で光散乱で観測されるのは波数零の有限のエネルギーを持った磁気励起です。その外に零エネルギーから波数に比例したエネルギーを持つgaplessな励起(Golestoneモード)が存在します。光散乱で観測された磁気励起は、三次の非線形性によって二つのgaplessな励起に緩和するのです。この磁気励起の緩和を観測し、緩和機構に理論的な解釈を与えたのは、本研究が始めてです。国際会議で発表を行い、そのproceedingが出版準備中です。また、歪んだ四面体構造を持つ擬一次元量子スピン系Cu_3Mo_2O_9が、8K以下での反強磁性秩序の発現と共に、c軸方向の強誘電性とβ軸方向の反強誘電性を同時に兼ね備えた特異な誘電特性を発現する事を明らかにしました。これは、当該物質がフラストレート・モット絶縁体での電荷再配列効果に起因したマルチフェロイック物質としての性質を持つ事を意味する画期的な結果です。中でも特徴的なのは、この物質の低温相が磁気的な超周期構造を持たないのに強誘電性が実現している事です。この結果を論文にまとめ、平成23年度に投稿いたします。
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