研究課題
本年度は、歪んだ四面体構造を持つ擬一次元量子スピン系Cu_3Mo_2O_9が、8K以下での反強磁性秩序の発現と共に、c軸方向の強誘電性とa軸方向の反強誘電性を同時に兼ね備えた特異な誘電特性を発現する事を明らかにしました。これは、当該物質がフラストレート・モット絶縁体での電荷再配列効果に起因したマルチフェロイック物質としての性質を持つ事を意味する画期的な結果です。中でも特徴的なのは、この物質のマルチフェロイック相が磁気的な超周期構造を持たずに実現する事です。この結果の一部は、Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)の原著論文として掲載され、Papers of Editors' Choice賞を受賞し、又JPSJの8、9月のTop 20 Most Downloaded Articlesになりました。この他にも「科学新聞(9/2号)」や「固体物理(2012年2月号)」といった、一般向けの新聞・雑誌等で紹介されました。又、私の実験的な研究を受けて、理論的な研究が連携研究者の松本正茂によってなされました。その結果、スピン・マルチプレットの考え方を、磁性鎖と相互作用するスピン・ダイマー系に拡張する事に成功しました。この結果はJPSJの原著論文として掲載されました。当初の研究目的では「スピン・マルチプレットの考え方の適用限界を知る」としていましたが、この手法は私の予想を超えた幅広く適用可能である事が明らかになりました。Cu_3Mo_2O_9の研究にリソースがある程度の集中したのですが、研究実施計画に記載したKCuCl3の光散乱を用いた測定に関しては、日本物理学会や国際会議(LT26)で発表を行ない、国の内外に研究成果を広めました。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、光散乱という限られた手法を用いてスピン・マルチプレットを研究する事を計画していたが、擬一次元量子スピン系と相互作用したスピン・ダイマー系にスピン・マルチプレットの考え方を適用できる事を明らかにしたことや、マルチフェロイック物質としての性質をスピン・マルチプレットの考え方で記述できるなどの当初計画の想定を超えた結果が得られました。そのため当初の計画以上に進展していると判断しました。
当初は光散乱という限定的な手法を用いた研究を計画していました。しかしながら、磁気的な超周期構造を持たずにスピン系に由来した強誘電性が発現するCu_3Mo_2O_9という物質が発見され、この物質の磁気的、誘電的、熱力学的な研究が、本研究の最終目標であるスピン・マルチプレットの考え方を発展させることに直結することがわかったので、次年度はもう少しCu_3Mo_2O_9の研究に重点を置きたいと思います。幸いに実験結果と定量的な比較ができる理論が構築されているので、例えば、強磁場下での磁気測定、誘電測定、分極測定、焦電流測定を行うことで、スピン・マルチプレットの新しい性質を実験的にも理論的にも示せると考えています。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (14件)
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 81 ページ: "024711-1"-"024711-14"
DOI:10.1143/JPSJ.81.024711
固体物理
巻: 552 ページ: 79-87
巻: 80 ページ: "083705-1"-"083705-4"
DOI:10.1143/JPSJ.80.083705