研究概要 |
我々が光散乱測定で観測している磁気励起は,Anderson-Higgs モードと呼ばれ,種々の物理現象に共通してあらわれる普遍性を持った励起状態であることが明らかになった。TlCuCl3 及び KCuCl3 の光散乱測定では,この分野の中性子非弾性散乱測定の権威であるスイス PSI 研究所の Ch. Ruegg 教授と議論し,中性子非弾性散乱測定の未公開な結果と比較した。この結果を反映させ,現在論文を作成中である。 また,スピン・シングレットと擬一次元磁性鎖が相互作用した磁気構造が期待されるマルチフェロイック物質 Cu3Mo2O9 と,その磁性を担うS= 1/2 の Cu2+ イオンを,ほぼ同じイオン半径を持つ非磁性不純物 Zn2+ イオンに置換した (Cu,Zn) 3Mo2O9 や,非磁性の Mo6+ をイオン半径が大きく違く非磁性不純物 W6+ イオンに置換した系で光散乱測定を行い,次の知見を得た。 ・この系では,低温でのフォノン散乱強度の大きな増大が観測された。Zn3Mo2O9 ではこの増大が観測されなかったため,この特異な温度依存性は系が S = 1/2 の Cu2+ イオンを含む事に由来する事が分かった。 ・Zn 置換系で,異なる質量のイオンを導入した事による不純物モードが観測された。 ・低周波数部 (約 30 cm-1 付近)に,特異な振動モードを観測した。 8 K で生じる磁性鎖のスピンが秩序化した事により生じる結晶場により,スピン・ダイマー内の波動関数の混成が期待されたが,光散乱では低温で新しいピークが観測されなかった。この事から,低温での波動関数の混成の度合いが小さい事が分かった。この事は種々の追実験で確認した。これらの結果は国際会議発表で五件,日本物理学会で九件発表し,四件の論文が掲載されている(うち二件は印刷中)。
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