研究概要 |
単分子磁石(SMM)ユニットをイオン錯体(M)で連結した層状2次元ネットワーク[Mn(5-R saltmen)4]4[M(CN)6]ClO4・nH2O に対して、 1)23年度に引き続き、M = Mn1-xCoxとMn1-xFex (R=H) を合成し、SMMの連結部の乱れがネットワークの磁気転移に与える影響を調べた。Mn1-xFexの場合、x ~ 0.1 でDavidson-Cole型の緩和が消失した。これは、わずかな乱れによりスピンアイス状態が融解することを示唆する。この結果と、典型的な3次元スピンアイスであるパイロクロア化合物と直接比較するために、Bサイトを乱したDy2(Ti1-xZrx)2O7 を合成し、同様の実験を行ったところ、希土類を薄めていないにもかかわらず、わずかなBサイトの乱れ(x~0.05)でスピンアイス状態が融解することを初めて観測した。 2)ClO4-からPF6-, CF3SO3-へ変えたネットワークを合成した。磁気層内の構造はほとんど変化せず、層間距離が伸びる構造変化がみられた。その磁性はカウンターアニオンに関わらず、ほとんど同様の磁気挙動を示した。このことから、磁気構造の2次元性が確かめられた。 3)SMMユニットに置換基を導入したネットワークを合成し、層内の構造変化の影響を調べた。無置換体(R = H)のネットワークではFeイオンを中心に4回対称軸を持つ構造であったのに対し、Me基を導入した場合、結晶の非対称単位において4つのSMMユニットが全て非等価となる対称性が低い構造となった。またその交流磁化率は、ほとんど周波数依存性を示さないが、遅れの成分は依然大きいことから、強磁性的であるが、フラストレーションが残る磁性を持つ。これは、無置換体のようなネットワークにおける対称性の高い構造が、磁気的フラストレーションの発生に重要であることを示している。
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