研究概要 |
スピン・パイエルス転移を示す銅酸化物CuGeO_3への原子置換により誘起される反強磁性長距離秩序,およびその主体となるCu原子磁気モーメントの発生位置に関する知見を得ることを目的として,原子置換系Cu_<1-x>Mg_xGeO_3(Mg置換系)およびCuGe_<1-y>Si_yO_3(Si置換系)について,Cu核の核四重極共鳴(NQR)および核磁気共鳴(NMR)測定を行った。 反強磁性状態における信号探索の結果,Mg置換系(x=0.019,0.030,0.045)およびSi置換系(y=0.012,0.020)の両系についてゼロ磁場下でのCu核NMR信号観測に成功した。Si置換系では不純物原子に隣接したCu原子に由来するスペクトル線(衛星線)の強度が支配的であり,スピン・パイエルス(SP)状態におけるNQRスペクトルが内部磁場により分裂することが明らかになった。内部磁場の大きさは1.3Kにおいて35mT程度と小さく(y=0.020),磁気モーメントにして0.01μ_B程度であった。このことは,Si置換系では不純物近傍には大きな磁気モーメントが発生しないという磁気構造モデルを強く支持する。これに対してMg置換系ではスペクトル分裂は見られず,SP状態に比して線幅が増大することが判明した。これはMg置換系の方がSi置換系に比べ局所構造の乱れが大きく,内部磁場が不均一であるためと考えられる。また,Si置換系とは異なり,衛星線の線幅はxの増加とともに増大する。これはSi置換系に比べMg置換系ではCu原子周辺の構造歪みが大きいことを意味している。
|
今後の研究の推進方策 |
Si置換系の反強磁性状態では,母物質CuGeO_3と同様の環境にあるCu原子に由来するスペクトルの強度がほぼ消失していた。このサイトで磁気モーメントが発生し,共鳴周波数が大きく変化したことが信号消失の原因として挙げられるため,今後はゼロ磁場・反強磁性状態でのNMRスペクトル測定をさらに進め,主線に対応する信号を捕捉し,内部磁場を決定する必要がある。これと並行して常磁性状態でのNMR測定により主線および衛星線のNMRシフトを決定することで,母物質と同等の環境にあるCu原子および不純物原子に隣接するCu原子の磁気状態の差異を明確にしていく。
|