研究概要 |
スピン・パイエルス転移を示す銅酸化物CuGeO3への原子置換により誘起される反強磁性長距離秩序,およびその主体となるCu原子磁気モーメントの発生位置に関する知見を得ることを目的として,原子置換系CuGe1-ySiyO3(Si置換系)についてCu核の核四重極共鳴(NQR)および核磁気共鳴(NMR)測定を行った。 Si置換系(y=0.012, 0.020, 0.050)におけるNQR測定では,従来観測されていた主線M,衛星線S1, S2に加えて,新たな衛星線S3が観測された。置換量の増加とともに強度が増大していることから,比較的多数(3個以上)のSi原子に隣接するCu原子からの信号と同定した。 反強磁性状態におけるNMR測定では,CuGe0.950Si0.050O3(y=0.050)についてゼロ磁場下でのCu核NMR信号観測に成功した。しかし,CuGe0.980Si0.020O3(y=0.020)においてみられた内部磁場によるスペクトル分裂は観測されず,不均一な広がりを示した。これは置換に伴い内部磁場の分布が大きくなったためと考えられる。また,各衛星線のピーク位置は一様相に比して数百MHz程度シフトすることが判明した。ピーク位置のシフトは,内部磁場の分布が正負一様ではなく,磁気構造を反映した偏りを持つことを示唆している。 y=0.050でもy=0.020と同様,不純物原子に隣接したCu原子に由来するスペクトル線(衛星線)の強度が支配的であり,主線の寄与はほぼ消失していた。このことは,主線が大きな内部磁場を受けて共鳴周波数が変化し,観測範囲から外れたためと考えられ,Si置換系では不純物近傍ではなく不純物から離れたCu原子に大きな磁気モーメントが発生するという磁気構造モデルを強く支持する。
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