研究課題
ホランダイト型結晶構造を持つ遷移金属酸化物A_2M_8O_16(A=アルカリ元素等、M=遷移元素)は、その金属絶縁体転移や磁性・電荷軌道秩序化など特異な量子物性で、近年大きな注目を集めている。MO_6八面体が作る2重鎖が4本でトンネル構造を作り、その中にAイオンが入る、擬1次元的結晶構造を持つ。構成元素に依存して種々の物性を示し、いわば多彩な電子物性の宝庫となっている。現在、この系に対する実験的研究が、多方面から急速に進展しつつある。この系の理論的研究では、千葉大太田グループが世界を先導している。平成23年度は、特に次の成果を得、学術論文あるいは学会等で発表した。(1)ルテニウム系酸化物が擬1次元電子構造を持つ物質であることを明らかにし、朝永・ラッティンジャー流体系物質の候補であることを示した。(2)クロム系酸化物の金属絶縁体転移の起源に関する研究を進め、これが完全スピン分極した電子系のパイエルス転移であることを明らかにした。また、二重交換相互作用模型への格子の二量化の影響に関する理論計算を進めた。(3)二重交換相互作用模型の準粒子バンド構造に関する理論的研究を展開した。(4)モリブデン系酸化物の電子状態の特異性を、モリブデン原子が4個集まったクラスターをひとまとまりとする超原子結晶の観点から説明できる可能性を提案した。(5)バナジウム系酸化物の電子状態計算を進め、この系では電子間相互作用の効果が著しく第一原理的手法では実験事実が説明できないことを明らかにした。また多体効果を取り入れる研究の方向性を確認し、今後の研究の展開を具体的に計画した。
2: おおむね順調に進展している
ホランダイト型遷移金属酸化物のうち、ルテニウム系、クロム系、モリブデン系については、第一原理電子状態計算の実行とその結果の解析から、各物性の本質的な起源を明らかにできた。バナジウム系については電子間相互作用の効果が著しく、その効果を取り入れる手法の開発を進めており、おおむね当初の計画に沿って進展している。
ホランダイト型遷移金属酸化物のうち、バナジウム系酸化物については電子間相互作用の効果が著しく、第一原理的電子状態計算の枠だけではその本質的効果が解明できないことが明らかとなった。またマンガン系酸化物については実験研究が進行しているものの、その本質に関する深い洞察には到達していない。今後の研究推進の方策としては、これらに関して電子相関効果を正確に取り入れる計算方法を確立し、それを応用することである。自己エネルギー汎関数理論に基づいた変分クラスター近似は、二軌道ハバード模型等に適用し成果をおさめその有用性を確認している。また動的平均場理論を第一原理電子状態計算と組み合わせて使う方向を検討している。
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Journal of Physics : Conference Series
巻: (印刷中)
Phys. Rev. Lett
巻: 107 ページ: 266402/1-5
DOI:10.1103/PhysRevLett.107.266402
Physical Review B
巻: 83 ページ: 195101/1-6
10.1103/PhysRevB.83.195101