ホランダイト型結晶構造を持つ遷移金属酸化物 A2M8O16(A=アルカリ元素等、M=遷移元素)は、その金属絶縁体転移や磁性・電荷軌道秩序化など特異な量子物性で、近年大きな注目を集めている。MO6八面体が作る2重鎖が4本でトンネル構造を作り、その中にAイオンが入る、擬1次元的結晶構造を持つ。構成元素に依存して種々の物性を示し、いわば多彩な電子物性の宝庫となっている。現在、この系に対する実験的研究が、多方面から急速に進展しつつある。この系の理論的研究では、千葉大 太田グループが世界を先導している。 平成24年度は、特に次の成果を得、学術論文あるいは学会等で発表した。(1)クロム系ホランダイト酸化物の金属絶縁体転移の起源が完全スピン分極した電子系のパイエルス転移であることを明らかにしたことを背景に、二重交換相互作用模型への格子の二量化の影響に関する理論計算を完成させた。(2)二重交換相互作用模型の準粒子バンド構造に関する理論的研究を完成させた。(3)モリブデン系ホランダイト酸化物の電子状態の特異性を、モリブデン原子が4個集まったクラスターをひとまとまりとする超原子結晶の観点から説明する研究を完成させた。(4)クロム系ホランダイト酸化物の関連物質としてのカルシウムフェライト構造を持つクロム酸化物NaCr2O4の基本的電子構造を明らかにした。この物質はホランダイトと同様のトンネル構造を有し反強磁性体であるにもかかわらず巨大磁気抵抗効果を示す興味深い物質であり、今後の発展的な研究計画を立案した。 以上の研究により、ホランダイト構造を持つ遷移金属酸化物およびその関連物質に関し大きな研究成果を得ることができた。
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