本研究では、ピセンのドーピング効果と電子物性の相関を調べることを目的としている。初年度である平成22年度は、より効率的な電界効果による電子物性変調を第一の目的とした。具体的には、高い性能を持つ電界効果トランジスタの作製とその評価である。その結果、以下の成果を達成した。 1. これまで、ピセンFETは、その動作においてヒステリシスが非常に大きく、基礎物性評価としても応用としても性能に問題があった。今回、疎水性の高い基板を用いてFETを作製することで、ヒステリシスを大幅に抑制することに成功した。 2. 高い性能を示すピセンFETは1ppmというわずかな酸素に応答することを明らかにした。酸素のみを選択的、かつ、高効率で検出できる特性は、センサへの応用が可能なことを示している。酸素暴露によるデバイス電流の増加はデバイス界面付近のトラップの現象と理解してきたが、今回のデバイスにおいて、酸素を暴露したFETでは、高電圧側で電流の抑制効果も見られ、酸素暴露による電流増加の起源と逆の効果の観測もされた。バルクの特性と、界面の特性の特長が表れたとして理解できる。 3. ベンゼン環がアームチェア型に5個連なったピセンのFETが酸素に敏感なのに対して、7個連なった[7]フェナセンは、酸素暴露に対してデバイス特性が安定であることを発見した。今後の安定的なデバイス、再現性の高い物性評価に向けた新しい材料とフェナセン系分子の安定性に関する知見が得られた。
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