本研究では、β型分子配列をもつ有機超伝導体について、一軸性圧縮によって2量体化の程度、フラストレーションの程度を変化させたときの超伝導転移温度Tcを実験的、理論的に調べ、有機超伝導体における2量体性の重要性を明らかにし、スピン揺らぎに基づく超伝導転移機構との相関を解明する。本年度は、β型BEDT-TTF塩の中でTcのもっとも高いβ-(BEDT-TTF)_2I_3について調べた。この物質のTcは常圧では1.5Kと低いが、エポキシ樹脂に埋め込むことによりIkbar程度の圧力が加わり、8Kの高Tc相を得ることができた。電子スピン共鳴法により分子スタックの方向を特定して一軸方向の圧力を加えることにより、高Tc相のTcの一軸圧依存性を測定した。分子のスタック方向への一軸圧ではBDA-TTP塩と同様に3.5kbar付近までは緩やかにTcが上昇して以降緩やかに減少した。一方、スタック垂直方向への一軸圧では3kbar付近からTcが急激に上昇して以降急激に減少しBDA-TTP塩とは異なる振る舞いを示した。この結果を理解するため一軸性圧縮下の移動積分を計算し2量体化ババードモデルのFLEX近似によってTcの計算を行ったところ、スタックおよびスタック垂直方向の両方で、低圧領域において圧縮によりTcが上昇する様子が再現された。 また結晶方位の確認と常伝導状態における電子構造の解明のため、光照射下における電気伝導特性の変化を測定した。
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