研究概要 |
本研究の目的は,モット絶縁体Ca_2RuO_4を外場で金属化し,その金属相に現れる新奇量子凝縮状態を探索すること.また,その転移過程の特異性を明らかにし,それらの発現機構の理解を進めることにある.今年度は,圧力と電場,ふたつの外場の効果について調べた. 1.圧力効果 (1)モット絶縁体Ca_2RuO_4は圧力下で強磁性を基底状態に持つ金属に転移する.この強磁性が典型的遍歴電子強磁性であることをスピン揺らぎのSCR理論に基づいて評価した.また,この強磁性は異方性が大きい3次元強磁性であることが分かった.これは,スピン軌道相互作用が大きいことに起因する. (2)さらに,8GPaまで加圧すると遍歴強磁性が突然消失し,超伝導が出現した.この超伝導は強磁性ゆらぎに関連したスピン3重項超伝導である可能性が高い. 2.電場の効果 Ca_2RuO_4に300Kでわずか乾電池一個に満たない0.8Vを印加するとMott絶縁体が金属化する.この電圧は電場にしてE_c~40V/cmであるが,これは既知の絶縁破壊電場に比べても1~2桁も小さい.また,この絶縁破壊は構造転移を伴う.さらに,パルス電場で発熱量を抑えた実験でも静電場同様,構造変化を伴う金属転移が誘起できることが分かった. この様なおどろくべきほど低電場での絶縁破壊および電場誘起の強磁性は,4d電子系Mott絶縁体Ca_2RuO_4の他には例がない特異な現象であり,基礎物理のみならず電子デバイスへの実用化が十分に期待できる.
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