研究概要 |
遍歴と局在の2重性は強相関電子系の持つ本質的な問題である。そこで、2重性を本質的に内在する単体セリウムを研究対象に選び研究を開始した。単体セリウムは、γ相からα相へ変化する際、結晶構造は変えないが20%もの体積変化を伴うことが知られている。相変化による4f電子の局在性と遍歴性が強く示唆されているが、単結晶育成の困難さから理論・実験ともに決定的な理解には至っていない。まず、相対論的バンド計算の手法を用いて、α-セリウム、γ-セリウム、f電子の寄与を調べるためにランタンおよびトリウムの電子構造を系統的に明らかにした。その結果、α-セリウムについては、横磁気抵抗の実験結果を合理的によく説明するが、f電子が局在的な傾向を示すγ-セリウムついては、局所密度近似(LDA)法を基礎とするバンド計算では説明することが困難であった。α-セリウムの解析の結果、2番目のバンド2と3番目のバンド3がフェルミレベルを横切り、4f電子成分によりフェルミ面が形成されていることがわかった。バンド2のホール面は、A軸上に位置する8個の閉じた円盤状フェルミ面と、W点でゾーンからゾーンへ複雑に連結したフェルミ面から形成される。バンド3の電子面は、Σ軸上に位置する12個の閉じたフェルミ面から形成され、その形状は原子番号90番目のトリウムのフェルミ面とよく似ている。バンド2のフェルミ面がゾーンからゾーンへ連結しているために開軌道の可能性があったが、解析の結果、開軌道は生じないことがわかった。また、バンド3がトリウムのフェルミ面と似ているところから、4f電子系、5f電子系の違いはあるが、単体セリウムの参照物質としても有効であることが確認できた。これは、事前に予想していたことであり、今後の研究を進める上でも、重要な確認の1つであった。さらに、強相関電子系の電子状態を微視的観点から理解するため、電子模型構築を進めるが、その指針を得るための解析を行った。この電子模型は、強束縛近似によるf-およびp-電子の遍歴項と混成項、f-電子間相互作用項、そして結晶場項からなり、Slater-Kosterとしては、(ffs),(fps),(fpp),(pps),(ppp)の5つを考えている。その解析の結果、Γ8とΓ7は(fpp)について敏感に変化することがわかり、LDA+CEF法による電子状態の解析において、重要な意味を持つことがわかった。
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