2価金属イオンとして種々の金属をDNAに導入出来る事がこれまでに分かっている。電荷担体導入の目的としては、Fe以外の金属では、金属イオンからDNA骨格に電子の移動は起こらず、元々DNAのカウンターイオンであった2つのNaイオンと入れ替わって2つのPO_4カチオンの負電荷とバランスするのみである。しかし、Fe-DNAでは、2価のFeCl_2を用いて合成すると3価のFeに変化することが複数の実験結果から示唆されている。例えば、膜の色は、2価の薄緑ではなく、3価に特徴的なカーキ色に変わる。ESRスペクトルも、Fe^<3+>に相当するスピンが5/2に特徴的なg=2の共鳴位置に信号を与える。しかも、Fe^<3+>が置かれた結晶場に依存して、スピンが5/2と1/2の2種類の値を持つ事がSQUID磁化率やESRスペクトルの解析から分かった。しかし、その成因は未だ謎である。 この時に、注意すべき事として良く指摘されるのが、空気中の酸素による鉄イオンの酸化の可能性を排除出来るか、という点である。今回、試料作成の途中過程において光学吸収の測定を平行して進めた。その結果、加水分解したFeCl_2が、酸素により酸化されて生成するFeO(OH)のスペクトルと、FeCl_2のスペクトルが異なることから、生成物を明確に区別出来る事が分かった。スペクトルが異なる理由は、FeCl_2がイオン結合をしているのに対して、FeO(OH)は共有結合性が高く、分子軌道性が高いためと考えられる。実験結果は、明確に、Fe-DNAの電子状態としてFe^<3+>の状態にある事が確認出来た。しかしながら、Fe^<2+>から移動した電子が何処に入ったのか?と言う点が未だ疑問として残る。 最近の報告に、Zn-DNAの試料作成方法を凍結乾燥法を用いると、凝縮電子系に特徴的なパウリ磁化率が現れるという興味深いものがある。そこで、追試を開始した。現状では再現出来ておらず、著者に問い合わせると、10回の合成で1回程度の成功率との事。そこで、本質的な違いを検討して、効率の良い再現方法の検討に入った。
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