研究課題/領域番号 |
22540371
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
溝口 憲治 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (40087101)
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研究分担者 |
坂本 浩一 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (90187047)
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キーワード | DNA / 2価金属イオン / キャリアードーピング / ESR / Pauli磁化 / 塩基πバンド |
研究概要 |
DNAは塩基対の相補性から強い自己組織化能を持つが、大きなエネルギーギャップの半導体であり、電気的には不活性である。そこで、DNA中に電荷担体を導入して電気的活性を持たせることが出来れば、ナノレベルの電子素子として利用できる可能性を持つ。本年度は、2価の金属イオンMを導入したM-DNA、特にFe-DNAの物性を明らかにして電気的活性を高める可能性の探求を目指す。 Fe-DNAは、2価のFeCl_2とDNAの水溶液に低温のメタノールを過剰に添加することにより合成される。その際に、2価のFeイオンが3価に変わることも明らかになっているが、そのメカニズムは明らかでない。更に、DNA中のFe^<3+>の電子状態は、高スピン状態のS=5/2と低スピン状態S=1/2がほぼ1:3の割合で混在するが、その機構も不明である。 本年度は、これらの機構解明を目指した。その手段としては、最も関連が疑われる酸素雰囲気の制御から始めた:1.合成時の雰囲気制御、2.乾燥時の雰囲気制御。主に、SQUID磁束計による磁化率測定と光学吸収係数の測定により物性の変化を調べた。 明らかになったこと:1.原料のFeCl_2水溶液は、室温に於ける試料の合成時間の約30分間では十分に安定で、空気中でもFeO(OH)への酸化は見られず、DNAが存在する時のみ反応時間に比例してFe^<3+>が生成される。なお、温度を50度Cに上げると僅かな量のFeO(OH)が生成される事は確認された。2.アルゴン中で合成、真空中で乾燥した試料では、空気中合成、乾燥の場合に比較してS=1/2の割合が優位に増加する。3.真空乾燥をすると合成雰囲気によらず同じ割合になる。4.空気中乾燥後、試料温度を上げて水分量を減らすと真空乾燥時の割合に漸近する。 これらの結果を総合すると、結論として、1.酸素はFe^<3+>の電子状態に影響しないが、2.DNA中の水分量が減少するにつれて、Fe^<3+>は高スピン状態から低スピン状態に変化する事が明らかになった。この結論を理解するモデルとして、Feイオンの結晶場を支配する水分子がFe^<3+>の電子状態を支配していることを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2価金属イオンを導入したM-DNAの中で、Fe-DNAの特異性は当初から顕著であった。しかし、その起源の解明は一筋縄では行かないと思えた。しかし、酸素の効果を調べていくうちに、やはり、Fe-DNAの物性においても水分が重要な役割を担っていることが明らかに出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、金属-DNAの新たな側面が明らかになる報告があった。これまでの我々の研究結果から、Fe-DNAを除くM-DNAは、水和され従金属イオンMが塩基対間でイオン結合していること、そのためにDNAへの電子移動は起こらず単なるイオン交換であり、DNAの電子状態への影響はほとんど無いことが明らかになった。しかし大変興味深いことに、スロベニアのOmerzu氏等により、Zn-DNAが、温度に依存しない金属電子に特徴的なパウリ的な磁化率を示すことが報告された。彼らの測定は、tris-バッファー+過剰なZnCl_2+数%のZn-DNAという混合物で行われ、再現性は1/10程度と低い。従って、同一の実験を進めるのではなく、新たな展開を目指してZn-DNAの物性の解明を進めていきたい。
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