DNAに電荷担体を導入し、ナノレベルの電子素子としての可能性を探る。本年度はZn-DNAの物性を解明し、電気的活性を高める可能性を調べた。 通常は、ZnCl2とDNAの水溶液にエタノールの過剰添加で合成する。しかし、Omerzu等は凍結乾燥で水分を除くと強相関の電子スピン系が現れると報告。その発現機構は、彼等が混合物試料で提案したTris緩衝液からZn-DNAへの電荷移動は考え難く、水分欠如の影響が本質的であると考え、その解明を試みた。 エタノール沈殿法により高純度Zn-DNAを作製した後、凍結乾燥を行った。得られた高純度Zn-DNA凍結乾燥試料の磁化率とESRから、凍結乾燥が常磁性磁化を発現させる事が確認された。しかし、磁化曲線は磁場に比例する常磁性ではなく、0.1T以下で飽和する約0.3%程度の強磁性的磁化とDNA反磁性の和であった。追実験で50K近傍の酸素磁化を減ずるため凍結乾燥Zn-DNAの発泡スチロール的な胞構造を壊して空気を排出した所、強磁性的磁化の減少と共に磁場に比例する常磁性が出現した。その大きさは、各塩基対当り1つのパイ電子が300K程度のキュリーワイス温度を持つとして良く理解される。 これらの実験結果を合理的に理解するモデルとして、凍結乾燥によりZnの配位水分子が失われイオン結合していたZnが塩基対の2つのNと直接配位結合をすると、イミンの水素が外れ塩基対が奇数電子系になるため1つのパイ電子スピンが発生する事、隣接する電子スピン間の強い反強磁性的相互作用によりシングレット或は高い転移温度を持つ反強磁性状態になっている事、胞の破壊により導入された雰囲気中の水分が頻繁に塩基対間に出入りして隣接スピン間の反強磁性的相互作用を変調するため、シングレット或は反強磁性相関が壊され、温度に依存しない常磁性が現れる事が結論された。成果は論文発表準備中である。
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