最近発見された新規超伝導MgB2と鉄ニクタイト系超伝導は共に複数の電子軌道から寄与される多成分超伝導である。多成分間の相互作用により、単一超伝導では見られない新規現象が期待できる。特に量子渦糸状態については、二成分のコヒーレンス長が磁場侵入長を両側から挟む場合、渦糸間に引力が生まれることをBabaevらが提案した。その後ある種のMgB2結晶について、理論的に提案された現象が実験で観測された報告も発表された。しかし、この実験で見られる渦糸対の間隔は2マイクロメーターであり、理論値の50ナノメーターより二桁程大きいことに我々が気づいた。このため、理論提案についても精査が必要となった。 我々は2バンド超伝導のGL理論を詳細に調べた。その結果、GL理論が成り立つ臨界点付近では、成分間の相互作用の結果、支配的になるコヒーレント長は一つしかないことが分かった。これと関連して、二つの超伝導成分の渦糸コアのサイズは臨界点に近づくにつれて、同じ値になる。このため、Babaevらの理論提案の元、つまり二つのコヒーレンス長の存在と磁場侵入長との大小関係が崩れてしまう。 さらに我々は二つの超伝導成分の平均場臨界点が一致し、成分間の相互作用もその温度でゼロになる場合に限り、面白い現象がおき得ることも突き止めた。この場合の磁場一温度相図を構成した。現在論文投稿中である。
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