申請者は、質量ゼロのディラック電子を有するゼロギャップ電気伝導体をバルク(多層)結晶では世界で初めて有機導体α-(BEDT-TTF)_2I_3(と類塩物質)の高圧力下で発見した。ディラックコーンが大きく傾いているのも特徴の1つである。新しいタイプのディラック電子系が期待できる。本年度は、層間磁気抵抗測定を主な研究手段とし、傾いたディラックコーンの特徴的な性質を見出すことを目的に、(1)ディラックコーンのパラメーター(傾きの方向や度合)と(2)低温・高磁場下で量子ホール状態を調べた。ゼロギャップ構造では磁場下でゼロエネルギーのところにn=0ランダウ準位(ゼロモード)を常にもつ。この系のフェルミエネルギーは常にゼロエネルギーに位置するので、ゼロモードとそのスピンおよびバレー分裂(コンタクトポイント近傍の低エネルギー電子構造をバレーと呼び、第一ブリルアンゾーンに独立した2つのバレーを持つ)の効果は電子濃度の変化として層間磁気抵抗に検出されるのである。以下2つが主な成果である。 (1)小型圧力セルを2軸回転できるシステムを構築し、層間磁気抵抗の磁場方位依存性の詳細な測定と森成らによる解析的式とからディラックコーンのパラメーターを実験的に決定した。 (2)低温・高磁場でスピン分裂した系の試料エッジ電子状態は特異である。縮退した2つのバレー分裂することがグラフェンでは既に知られていて、電流は試料エッジ付近だけを流れる、いわゆる量子ホール状態が実現しているのである。α-(BEDT-TTF)_2I_3でも低温・高磁場下で量子ホール状態が実現していることを示唆する結果を得た。
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