研究代表者は、バルク(多層)なディラック電子系を世界で初めて有機導体α-(BEDT-TTF)2I3(と類塩物質)の高圧力下で発見した。本研究ではこの物質を舞台にして分子性導体におけるディラック電子系の基礎学理構築を目指し、特徴的な性質を明らかにすることを計画した。以下が本年度の成果である。 1.[西尾豊(研究分担者)]: この系の低温・高磁場におけるn=0ランダウ準位のスピン分裂は、ゼーマンエネルギーよりも主に交換エネルギーであることを明らかにし、さらに、交換エネルギーがランダウ準位の幅を広げる効果を見出してきた。今年度は、この効果を明らかにするために、電荷秩序絶縁状態とディラック電子系とが相分離した圧力域で磁気抵抗とホール効果を調べた。このような乱れた系ではランダウ準位の幅が磁場の1/2乗に比例して広がることが顕著であるためである。結果、この乱れた状態でも交換エネルギーがランダウ準位の幅を広げる効果を確認した。 2.[田嶋尚也(研究代表者)]: 2K以下の温度域において、ゼロ磁場下面内電気抵抗がlog-Tに急激に増大する現象を見出した。このような電気抵抗のlog-T則は近藤効果や乱れた系でよく見られる。しかし、そのような描像ではこの系の磁場効果など全く説明できない。一方、n=0ランダウ準位のスピン分裂からg因子を調べると、2K以上の温度域ではg~2だが、2K以下の低温では急激にゼロまで減少することを見出した。グラフェンのg因子はこの系とは反対に非常に大きく、量子ホール状態でスカーミオン励起が生じていることが報告されている。従って、この系はグラフェンとは異なる独自のスピンテクスチュアが形成されていると推察する。この異常なg因子は他のランダウ準位のスピン分裂からも検出できた。最近、薄板結晶にホールを注入し、量子磁気抵抗振動を観測することに成功したのである。
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