一次元の量子系の典型例であるS=1/2スピン系や自由フェルミ系について、その相互作用が正弦的・双曲的に空間変調された系の基底状態解析を、テンソル積変分形式の一つである密度行列繰込み群による数値解析などを用いて引き続き進めた。相互作用変調にかかわらず基底状態が一様であることについては桂・丸山・引原らによって、ある条件の下で厳密な証明が与えられたことを受け、数値計算で得られた非可解系の計算結果などとともに取りまとめて、2つの研究会(ETHチューリッヒ、バンガロー大学)で公表した。これらはGAPのない臨界系についての成果であり、研究会での議論を通じて、GAPを持つ系について系の非一様生が基底状態に現れない場合があるかどうか、またその場合に相互作用が局所的であり得るかどうか等、幾つかの新しい研究方向を得ることができた。 一方で、量子・古典対応の考えに基づいて、これまで弱く変形された古典統計モデルの熱力学的な性質についても研究を重ねて来た。この方面では、弱く変形した(つまり平面に近いけれども多少曲がった)格子を生成する手法が共同研究者の A.Gendiar より提案され、その格子に見合うよう角転送行列繰込み群(CTMRG)の計算手順を工夫しデータ収集を行った。この系では相転移点での特徴的な長さ、つまり相関距離が有限であり、かつ自由エネルギー的には2次転移であるという特殊な相転移が観測されるが、その特徴的な長さが実は双曲格子の弱い曲がりに対応する曲率半径と同じオーダーの量であることが判明した。以上のとおり、テンソル積によって物理状態を圧縮して取り扱う繰り込み群手法を通じて、相互作用の空間変化が長さのスケールを持ち込むことを数値的な結果ではあるが示すことができた。
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