基礎・応用科学の中で一般的に言われる「ノイズ」というものは、排除すべきものとして、その発生原因やマイナス的効果及び処理手法などが主に研究されてきた。しかし、近年の研究で、ノイズは自然現象の中で必然的な存在であり、ある条件下ではプラス的な効果を引き起こすことが分かった。例えば普通は認知できない微弱な信号に適切なノイズを加えることによって、その微弱信号が検出できる。これは確率共鳴現象として広く知られている。 本研究では、液晶対流系における様々な散逸構造のノイズ応答性を電気光学的手法を駆使して実験的に調べた。その応答特性を定量的に測定・分析し、その結果から非平衡散逸系におけるノイズ効果による基礎的な知見を構築し、その応用可能性を探ることを目的とした。当該年度の具体的な研究成果は、以下である。 (1)液晶対流系の典型的な散逸構造であるWilliams domain (WD)において、そのノイズ応答性を調べた。ノイズのカラー化によってWDの発生閾値に大きな違いが発見され、従来のホワイトノイズによる結果と比較した。 (2)さらに、カラーノイズの時間特性(相関時間)とWDの固有時間特性がある関係式で示され、これまでのWDの依存性の結果を体系的に理解することができた。 (3)様々な周波数領域で現れる多様な散逸構造のノイズ応答性をその閾値変化と特性波長変化で調査し、比較・分析した。その結果から散逸構造の個別性(メカニズム)におけるノイズ応答性を明らかにした。 本研究により、ノイズの影響を避けられない応用分野(脳科学、ナノテクノロジー、変動する光量下の植物生理生態など)においてノイズの新たな可能性について検討した。
|