本研究は自律的にリズムを生み出すユニット(振動子)が多数集まり、互いに作用を与え合うような系(結合振動子系)において、劣化などにより自律的に振動できなくなったユニット(不活性素子)が系全体の振る舞いに与える影響を明らかにし、これを系の振る舞いのコントロールに応用することを基本的な目的としている。具体的な課題は三つあるが、今年度はまず、「局所結合系におけるエイジング転移の理論」に取り組んだ。ここで、エイジングとは結合振動子系において不活性素子が増えることを意味する。また、エイジング転移とは、不活性素子の割合pが臨界値を越えることによって、系全体が定常状態に落ち込む転移現象をさす。今年度は、リミットサイクル振動子のモデルとして重要なStuart-Landau(SL)振動子の1次元最近接結合系(リング)を取りあげ、エイジング転移の理論をたてた。これにより、同じ系で数値シミュレーションによって見つかっていた以下の点を理論的に説明することができた。(a)系のサイズNが大きくなる極限で、エイジング転移点でのpの値(つまり、pの臨界値)がNについてべき的に1に近づくこと。(b)このべき指数の値が振動子間の結合強度Kが大きい極限で、べき的にゼロに近づくこと。ただし、べき指数の値そのものについてはシミュレーションの結果と理論で多少食い違っている。その原因を明らかにすることは今後の課題の一つである。次に、二つ目の課題である、時空ダイナミックスへのエイジングの効果の研究を行い、上と同じSL振動子結合系で数値的に観測されていた無秩序誘起の同期現象を理論的に解明した。このほかに、ここで対象としているような不均一な振動子集団が強結合の極限で従う一般的な方程式を導出し、これを用いて、エイジング転移境界の強結合極限に関するある経験則を説明した。
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