研究課題/領域番号 |
22540397
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
大同 寛明 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70188465)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 非線形動力学 / 結合振動子系 / エイジング転移 / サドルノード分岐 / 同期現象 |
研究概要 |
本研究は自律的にリズムを生み出すユニット(振動子)が多数集まり、互いに作用を与え合うような系(結合振動子系)において、劣化などにより自律的に振動できなくなったユニット(不活性素子)が系全体の振る舞いに与える影響を明らかにし、これを系の振る舞いのコントロールに応用することを基本的な目的としている。具体的な課題は三つあるが、今年度は昨年度に引き続き、主に課題(1)に含まれるエイジング転移の理論的研究に取り組んだ。ここで、「エイジング」とは結合振動子系において不活性素子が増えることを意味し、「エイジング転移」とは、不活性素子の割合が臨界値を越えることによって、系全体が定常状態に落ち込む転移現象をさす。このような転移によって全体の振動が停止すれば、その系の本来の機能を果たすことはできなくなる。このような意味でエイジング転移の研究は重要である。本年度の成果は以下の通りである。(a)エイジング転移の研究をサドルノード分岐かつ各ユニットの分岐パラメーターが系内で一様分布に従う場合に拡張した。Morris-Lecar 振動子や位相振動子を用いて数値シミュレーションを実行し、これらの相図に定性的な類似性があることを見出した。また、結合強度の値に応じて、エイジング転移が連続と不連続の場合に分かれることも分かった。さらに、これらの結果を単純化されたモデルを導入することにより、解析的に説明することに成功した。(b)上述の系で、パラメーターを変えていくときに起こる非同期相から同期相への転移現象を、ある秩序変数を用いて数値的に調べた。(c)課題(2)の研究において、1次元局所結合の場合に、エイジングが振動子間の同期にプラスに働くことを数値シミュレーションによって見出した。これは、すでに発表済みの無秩序(あるいはエイジング)誘起の同期現象の具体的メカニズムを与えるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的を達成するために掲げた三つの課題のうち、最初の二つについて基本的な目標は達成している。また、当初予定していなかったエイジング転移の理論の一般化(拡張)を今年度においてさらに推進することができた。この一般化の枠組みそのものは前年度に発表ずみであるが、これを今まで取り上げなかったサドルノード分岐の場合に適用し、解析的な理論を立てることができた。サドルノード分岐を示す力学系は興奮性を示し得ることから、特に脳神経系の研究において重要である。また、これまで、国際会議でホップ分岐の場合のエイジング転移の理論について講演した際などにも、結合振動子系分野の有力な研究者から、何度も研究を勧められてきたものである。従って、この重要な課題を放置して置くわけにはいかないのである。このような理由で今年度は研究対象がこれまでと異なり、その理論化に時間をかけたために、研究発表の面は抑えざるをえなかったが、次年度以降に得られた結果をまとめ、発表していく。
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今後の研究の推進方策 |
研究の基本方針に大きな変更はないが、今年度に推進したサドルノード分岐の場合(すなわち、興奮性と振動性の力学系が共存する場合)のエイジング転移の研究をまとめ、合わせてこのような系において見られる同期・非同期転移の研究を進めたい。また、余裕があれば、複雑ネットワークの場合の研究にも取り掛かる予定である。つまり、昨年度にも述べたとおり、当初予定した以上に、課題(1)であるエイジング転移の理論を発展させるために時間を使いたい。そのうえで、課題(2)に含まれる局所結合系の dynamic phase におけるダイナミックスを数値的かつ理論的にもっと深く調べたい。最後の課題(3)はこれらの研究成果をもとにして行うものであるため、来年度後半において、具体的構想を練ることになる。
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