今年度は、量子力学の基礎的な問題として、主として不確定性関係の研究を行った。 まず、通常の量子力学の定式化では、自由粒子を長さLの箱に入れ周期的な境界条件を課すことが多い。これは古典的な粒子がある運動量を持って走っているという描像を保ちうるという点で、散乱問題とか統計力学で特に有用である。しかし、奇妙なことではあるが、この一番簡単な定式化は不確定性関係という観点からは、扱いが非常に難しい。この理由は、運動量の固有状態に近づくと、いくらでも運動量の不確定度を少なくすることができるが、他方有限な箱にいれると、箱の大きさ以上の座標の揺らぎがないという点である。この問題を、藤川は物性理論等でおなじみのブロッホ波の考えを拡張して、実用上は運動量の描像を保ちかつ通常の不確定性関係に近いものを定式化する方法を提案した。 この考察を一部応用する形で、不確定性関係と量子力学の確率解釈の関連を数値計算を一部含めて考察した。この基本的な考えは、自分に都合のよい結果を出すような測定器を考えると、都合のよい現象は非常に小さな確率でしかおこらないが、確率の小ささを容認すれば可能ではないかというものである。過去において不確定性関係の破れの可能性の例として考えられていた思考実験の多くは、このような例であることを示した。また実際の応用においても、例えば、重力波の測定のように信号が非常に微弱で、測定値と量子的な揺らぎの競合がおこるような場合には、これまでも多くの人たちにより測定の可能性に関する異なる見解が述べられてきた。この問題は起こる確率が非常に小さい場合がある、という事実を加味すると矛盾なく理解できる可能性があることを示唆した。 なお、申請書にあったように、今年度は藤川はシンガポール大学と中国天津の南開大学を訪問し、出口はインドのボース研究所を訪問した。これらの交流の成果は、来年度の研究成果となるよう努力している。
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