研究課題/領域番号 |
22540404
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中山 恒義 北海道大学, 名誉教授 (80002236)
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研究分担者 |
兼下 英司 仙台高等専門学校, 総合科学系, 准教授 (60548212)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 熱電変換物質 / クラスレート / THzダイナミクス / ガラス / ボソンピーク |
研究概要 |
本研究は、I型内包化合物クラスレート物質群が示す構造ガラス的な諸物性の起源について理論的な研究を遂行することが目的である.内包化合物クラスレートはネットワークを作る籠(ケージ)とその中に含まれるゲスト原子からなる.これらの物質群は、最近のエネルギー問題との絡みで、高い効率の熱電変換物質としても期待されている.高効率の熱電変換物質設計の指針として、フォノンガラス・結晶電子(phonon galass-electron crystal)という概念が、1995年にSalesにより提出されて以来、内包化合物クラスレートは特に注目されるようになった.すなわちフォノン熱伝導はガラス的で、電気伝導は結晶的な性質を示す物質が熱電変換に有効であることがわかり、この条件を満たす物質群として、内包化合物クラスレートが注目を集めるようになった. 特に興味深いのは、ゲスト原子を包む籠のサイズとゲスト原子のイオンサイズの比率が小さい場合にかぎり、ガラス的性質を示すことである.別の見方では、籠の中のゲスト原子は中心に位置せず、空間反転対称性が局所的に破れた状態にある.これらの対称性の破れに着目し、その背後にある物理的起源の理論的解明を行った. THz振動数モード、すなわち構造ガラスのボソンピークに対応するモードの起源解明は、本研究において特に重要な課題であるが、これについては光学モードと音響フォノンの混成モードがボソンピークの起源であることを理論的に明らかにした.本研究課題の成果は、内包化合物クラスレートのみならず、未解明の現象が多く残されている構造ガラスのTHzダイナミクスに対する研究にも大きく貢献できるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高効率な熱電変換物質として注目されている内包化合物クラスレートが示すガラス的諸物性の物理的起源、特にTHz振動数領域での特異な物性について研究した.内包ゲストイオンの対称性が破れた系はガラス的な熱伝導を示し、熱電変換指数ZT(Figure of Merit)が1を越えることが実験的に示され最近注目されるようになった.本年度は高温領域での熱電物質クラスレートが示す特異な諸物性についての研究を遂行した.高温領域での実験結果は、対称性が高い結晶とのものとは全く違う同じ振る舞いを示すが、本年度はこれらの特異な物性発現の物理的起源を解明する目的で研究を行い、次のような成果を得た.熱伝導について、対称性の破れに伴いオフセンターに位置するゲストイオンに対して一般的に成立する理論式を立てた.熱伝導のプラトーは、局所的に対称性が破れた状態にあるゲストイオンに起因する回転モードと籠ネットワークが形成する音響フォノンとの混成モードを反映したものであることが分かった.すなわち、これによりフォノン分散関係が平坦化することで、熱伝導が強く制限されることが明らかになった.フォノン分散関係を計算し、音響フォノンと回転モードとの結合が、オフセンター・ゲストイオンの配置ランダム性を反映しブロードになることを明らかにし、これがガラスで普遍的に観測されるボソンピークの起源と深く関連していることを指摘した. これらの結果は、効率の良い熱電変換物質の設計指針を与えるものである.ガラスで普遍的に観測されるボソン・ピークの起源に関する研究は純粋にアカデミックなものであったが、高効率の熱電変換物質の設計に役立つことが分かったのは大きな成果である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度であるため、これまで3年間に得られた知見の総括・取りまとめを主眼とした研究遂行を行う.さらに、これらの内包クラスレート物質群の物理的性質に関する実験研究を強力に進めてきた日本国内、並びに欧米の研究者と密接な連携を取り、3年間の研究の集大成に向けた取り組みを行う.これらをもとに、これまでの成果を総合報告としてまとめ発表する計画である.従来、非線形性が強いポテンシャルにトラップされた原子に起因する特異な物性に関する研究において、単一の非線形ポテンシャルの中の原子の運動が主に注目され、原子間の相互作用の効果は考慮されることはなかった.本研究で初めて、非線形ポテンシャルにより束縛された原子同士の長距離相互作用が注目され、それらによるダイポールモーメントの強い相互作用が、ガラス的諸物性の発現に重要な役割を示していることが明らかにすることは、さらなる研究発展に対して重要である. クラスレートに表れるボソンピーク的なモードは、局所対称性の破れに伴いTHz振動数領域に発現する新規なモードであることを提唱してきたが、このアイデアを他の系にも適用し確実なものとする計画である.さらに新たな物理現象の理論的予言、そしてその実験との比較検証を構成メンバーとともに行い、それらの成果をもとに背後に秘められている物理的メカニズムに対する一般理論の構築を行う.平成25年度は最終年度であるため、以上の研究の取りまとめ論文発表、学会報告、さらに研究成果を拡張し、また内外の著名な研究者との討論を通じて、有効な熱電変換物質開発に対する新規な提案を行うことを計画している.
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