多体量子系をその量子性を保ったまま自在に制御することは非常に難しい。量子力学的制御には、各構成要素(量子ビット)、およびそれら要素間の相互作用をすべて意のままに操ることが求められる。しかし、これは技術的に困難であるばかりでなく、マクロな制御系とミクロな被制御系との相互作用を通して全体の量子コヒーレンスを壊してしまうことにつながる。この影響を最小限に抑えるために、すべての要素を制御する代わりに、量子系への人為的制御を最小限に抑えて上述の困難を軽減する手法を探るのが本研究の目的である。 具体的には、N個のスピン1/2粒子からなるネットワークの一部だけにアクセスして、2^N次元をなす空間内で系を制御することを考える。まず、制御するにあたっては、当該スピンシステムのダイナミクスを記述するための種々のパラメータを限られたアクセス下で推定する必要がある。したがって、「ハミルトニアン・トモグラフィ」は量子制御において非常に重要な問題であり、本年度はこれに注力した。例えば、1次元スピン鎖であれば、端部のスピンのみの状態制御と観測を通して残りのスピン間相互作用の結合定数や局所磁場強度を推定するタスクなどである。全磁化を保存する場合に加え、イジングモデルなど物理的にも重要な多くのケースにも適用可能な推定方法を構築する必要があった。そこで、(準)粒子の生成・消滅演算子について2次であるハミルトニアンに対するパラメータ推定方法を提案した。これは特別な場合としてイジングモデルを含んでおり、当該推定法は(準)粒子がフェルミオン、ボソンのいずれでも適用可能である。NMRや超伝導量子回路において検証・実践可能な方法であり、またさらに広いクラスの問題への応用可能性を秘めるものと期待している。
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