本年度は、量子ホール系の端電流を用いた量子エネルギーテレポーテーション(QET)の実験的検証のための理論的基礎研究を着実に行いつつ、他の物性系を用いたQET実装のために一般的な量子スピン鎖系における理論研究と有限温度系でのQETの研究を行った。ホール系の実験に関しては東北大学理学部の遊佐剛準教授の実験グループと密に議論を積み重ね、実験グループの専属メンバーが25年度からQETの実装に必要な準備実験研究を開始することになった。3年程度の目途でQETの実験的検証を目指す。 量子スピン鎖は例えばBEC系でも最近実験的に作れる可能性が見出されている。BEC以外にも様々な物性系が量子スピン系でモデル化できることも知られているため、量子スピン系でのQETの研究は重要である。多体系に中に閉じた部分系集合を作って量子測定すると、その外部部分系からQETによりエネルギーが取り出せる。この基底状態に一般的には量子エンタングルメント(量子もつれ)が存在することが知られているが、その量子もつれの量とQETを行った時の転送エネルギー量との間の一般的な定量的関係はこれまで不明であった。今回の研究により、基底状態のエンタングルメントエントロピーが転送エネルギーのある2次関数の上限になることを一般的に示すことができた。この関係は確かに基底状態の量子もつれが一般的にQETのリソースになっていること意味する。この結果は1次元量子スピン鎖に限らず、高次元のスピンネットワーク系にもそのまま拡張できる。また米国のBucknell大学のMichael Freyとともに、2量子ビットからなる縦磁場イジングモデルの有限温度のQETの研究を行った。低温領域に存在していた量子もつれはある臨界温度以上で完全に消失するが、代わりに量子ディスコードという別な量子相関を使って全温度領域でQETは有効に働くをことを示した。
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