研究概要 |
応募者らが作り上げた、量子統計力学のまったく新しい定式化を、カノニカル形式にまで発展させた(S. Sugiura and A. Shimizu, Phys. Rev. Lett. 111 (2013) 010401)。 この定式化では、たった1個の量子純粋状態で平衡状態を表し、その状態から、統計力学の対象になるようなあらゆる物理量を求めることができる。従来の統計力学では、ひとつの平衡状態を求めるのに、指数関数的に多い量子状態を求めなければならなかったが、たった1個で済んでしまうのだ。そのため、この定式化は、計算手法としても優れており、従来は計算できなかったような系の統計力学的性質を計算できるようになった。その実例として、カゴメ格子上の量子反強磁性ハイゼンベルグ模型の、いわゆる比熱のダブルピークの問題を解決した。 また、量子計算機を、量子統計力学の対象になるような量子多体系として扱い、その量子状態の異常性を調べる理論を定式化した(A. Shimizu, Y. Matsuzaki and A. Ukena,J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 054801)。 量子統計力学では、通常は、並進対称な物理系を扱う。それに対して量子計算機では、あらわれる量子状態は、プログラム次第で変わるし、同じプログラムを走らせても入力次第で変わる。さらに、どんな実装をしているかで大きく変わってしまう。そこでまず、これらの差異を吸収して、通常の量子統計力学の土俵に載せるための理論を作った。次に、それを用いて、量子計算機が古典計算機に比べて真のスピードアップを達成するようであれば、必ず異常な量子状態が現れる、という応募者らの予想(Ukena and A. Shimizu,Phys. Rev. A69 (2004) 022301)を厳密に定式化し直した。これにより、応募者らの安定性に関する一般的な理論(Shimizu and T. Miyadera, Phys. Rev. Lett. 89 (2002) 270403)が、すべての量子計算機に適用できるようになり、量子計算機内の量子状態の安定性が調べられるようになった。
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