強力で、正確に定義されたコヒーレントな原子線源を作ることは原子光学の科学への応用を広げるための重要な課題である。我々はこの課題研究で以下の二項の成果を得た。 (1) 超伝導原子チップによる原子操作の研究。 ① 操作を行う原子雲を作るための、ナトリウム磁気光学トラップ、原子の運送装置、チップを液体ヘリウム温度に冷却、温度コントロールを行うための装置、の設計製作を行い、基本的な動作の確認を行った。② 超伝導原子チップの設計と製作。製作の協力を求めた企業が2011年の震災の影響を受けたため、Nb薄膜の第一次試作品までしか製作できなかったが、我々が考案、作成したチップの構成を述べる。基本的な考えは電流導入のための配線を使わず、永久電流で原子ガイド用の磁場を作り幾何学的に正確で精度が高く、かつ微細なデバイスを作ることにある。ガイドの磁場パターンを決める永久電流は超伝導転移温度以上であらかじめ一様な外部磁場を印加しておくことで誘起し、超伝導回路の各部分の電流制御はレーザー光で回路の一部を加熱して永久電流を遮断するか、転移温度の異なる材料で回路を作ることで達成する。精度は落ちるが、第2種超伝導体に浸入する磁束を使うことも行った。 (2)自由空間中での高輝度原子線の開発。 我々は準安定状態ネオン原子の高輝度連続原子線を開発した。原子束は約10^6/sec、原子源から1 m の距離でビームの断面は 1 cm^2 以下、温度は約100マイクロケルビンを達成した。これは簡単な原子干渉パターンならば"実時間"(すなわち通常のムービーの一コマの時間)で描ける画期的な輝度である。今後、若干積み残しの物理学的解析を終えた段階で詳しい記述を公表する予定である。また、この技術をアルカリ原子など、ボーズ凝縮に成功している原子に適用することは興味深い課題である。
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