研究課題
高磁場中の原子では、電子が核の回りをサイクロトロン回転する古典軌道に対応する量子準位であるランダウ準位が形成される。磁性材料の固体内で観測例があるが、孤立系では原子でしか観測例はない。本実験では、分子のランダウ準位の観測を行った。超伝導電磁石中に真空槽を組み込み、電子構造が単純な1電子系であるNO分子の分子線を磁場中に導入した。磁場中(0-7 T)で波長可変レーザー光を分子線に直交させ、NO分子を基底状態X^2II_<1/2>から中間状態A^2Σ^+の最低振動回転準位に励起した。もうひとつの波長可変レーザー光をこれに反並行に導入し、励起NO分子をさらにNO^+X^1Σ^+状態への零場中の電離極限以上のエネルギー領域に励起した。直接電離、およびランダウ準位を経由して生成されたNO^+イオンをパルス電場により加速しMCPに導入し、イオン電流量(∝光電離断面積)を第2のレーザー光波長の関数として測定した。電離極限以上のエネルギー領域の光電離断面積に、サイクロトロン振動数に対応するブロードな周期的構造とそれに重乗する微細構造が観測された。光電離断面積のフーリエ変換結果と古典軌道計算から得られた軌道周期を照合して、ブロードな構造は磁場に垂直な面内で電子が1回転して閉じた古典軌道を形成するランダウ準位に対応し、微細構造はこの面外でそれぞれ2回転、3回転して閉じた古典軌道を形成するランダウ準位に対応することが判明した。光励起で生成されるランダウ準位に対応する古典軌道は分子の核を貫く。サイクロトロン回転周期が核の回転周期とほぼ等しい磁場強度で測定したが、核の回転状態は中間状態A^2Σ^+の回転状態と同一であり、電子と核の回転の角運動量のカップリングが無いことが判明した。この結果は角運動量のカップリングの機構の理解という物理学上の意義があると共に、高磁場による化学反応制御や高磁場でプラズマを閉じ込める核融合炉中の分子の反応素過程の理解のために大きな意義がある。
2: おおむね順調に進展している
高磁場中の分子の光電離断面積のエネルギー構造は複雑で、電子のサイクロトロン回転と核の回転励起の寄与を分離することが当初は極めて困難であった。しかし、実験データのフーリエ解析と古典軌道計算シュミレーション結果を照合することにより、両者の寄与を区別することに成功した。この結果は学会発表において、高い評価を受けた。
本年度、高磁場中の分子のランダウ準位のエネルギー構造の解析に成功した。使用した実験装置は、磁場と電場を同時に印加できる構造に製作した。高磁場と電場の共存下で同様の測定を行い、既に、仮のデータの取得に成功した。その結果、磁場電場共存下での分子の高励起状態に関しても、本年度開発した解析方法がアプローチ可能である見通しを得た。今後、本格的に光電離断面積を測定し、そのエネルギー構造を解明し、高い外場中でのリドベルグ電子の周回と分子の核の回転との相互作用ダイナミクスの結論を導く。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
AIP Conference Proceedings,
巻: Vol.1390 ページ: 186-191
Doi:10.1063/1.3637388
Review of Scientific Instruments
巻: Vol.82, No.1 ページ: 013108-1-14
doi:10.1063/1.3514982