本研究の目的は、ヒトがモノに触れた時に人体に加わる外部刺激が触覚を生み、感情を喚起するプロセスを説明する物理モデルを提案することである。特に皮膚表面での物質の変形や摩擦などの物理現象との関係に着目した。まず、モノに触れることによって喚起される感覚・感情を被験者へのインタビューという心理学的手法で評価し、次に、皮膚内の触覚受容器に加わる外部刺激を摩擦評価装置や高速撮影、シミュレーションを用いて評価し、感覚・感情の物理的起源を探った。さらに、触対象の熱・力学的特性や界面科学的特性と指に加わった刺激、感覚・感情との関係を多変量解析し、モノとの接触がある心理現象を喚起するプロセスの全体像を示す物理モデルを構築した。これまでに、ヒトが触覚によって水と油を識別したり、硬さ・軟らかさを認知するメカニズムについて明らかにしている。 本年度はスポンジの触感と摩擦をはじめとする物理的特性の関係を解析し、使い心地の良い化粧道具の設計指針を示すこととした。すなわち、5つの化粧用スポンジの手触りを官能評価したうえで、ヒト指の力学的特性と表面形状を模した接触子を用いて、5つの化粧用スポンジの摩擦評価を行い、触感との間の相関を解析した。被験者が指でスポンジに触れた時には、さらさら・ふわふわ・すべすべしていて、ざらざらしていないスポンジが好まれた。さらに、これらの触覚はスポンジの摩擦・力学特性とセルの形態によって支配されていることが示された。これらの成果は、本研究において開発してきた触感解析の手法が化粧用スポンジだけでなく、さまざまなスポンジ製物品の設計・開発に有用であることを示している。
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