研究課題/領域番号 |
22540420
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
新屋敷 直木 東海大学, 理学部, 教授 (00266363)
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研究分担者 |
八木原 晋 東海大学, 理学部, 教授 (40191093)
喜多 理王 東海大学, 理学部, 准教授 (90322700)
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キーワード | 化学物理 / 生物物理 / 物性実験 / タンパク質 / 水溶液 / ガラス転移 / 誘電緩和 / 不凍水 |
研究概要 |
本研究は球状タンパク質,繊維状タンパク質,合成高分子など様々な水溶液の不凍水,水和タンパク質,氷の3つの緩和を298K~80Kの温度域、10μHz~10GHzの周波数域で広帯域誘電分光法(BDS)を用いて観測する。これらの緩和の普遍的性質と物質の構造依存性を調べ,(1)熱測定で観測されるガラス転移温度、Tg、と誘電緩和の関係、(2)不凍水緩和と水和タンパク質緩和の溶質構造依存性、(3)水和した溶質分子運動のガラス転移と不凍水の緩和時間の関係を明らかにする事である。2011年度に実施した研究で以下の成果が得られた。 濃度5-40wt%のゼラチン水溶液のBDS測定で、高周波側から不凍水、氷、水和ゼラチンに起因する3つの緩和を観測した。Tg(水和ゼラチン緩和の緩和時間が100sとなる温度:200~230K)以下では、不凍水緩和の緩和時間はArrhenius型の温度依存性であるが、Tg以上で緩和時間の温度依存性が大きくなった。この特徴は様々な水溶液で観測されてきたα緩和と水の緩和との関係と一致した。また、250K以下では一定の不凍水緩和強度が250K以上で混度上昇と共に急激に増加した。これは250K以上で温度上昇と共に氷が融解するためである。この氷の融解による不凍水の増加により不凍領域のゼラチン濃度が減少し、水和ゼラチンの緩和時間が急激に小さくなった。また、観測された3つの緩和の緩和時間はゼラチン濃度に依存しない。部分的に氷結した系では不凍水-タンパク質の不凍溶液相の濃度が融点以上の濃度に依存しない事が、ゼラチン水溶液でも成り立つ事が確認できた。 一方、BSAおよびリゾチウム水溶液の広い濃度範囲(含水率5~85%)で、DSCによる熱測定やTSDC(熱刺激再分極電流測定法)で得られたTgが、誘電測定で観測された水和タンパク質の緩和の緩和時間が100Sになる温度と一致する事を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低温域で観測される緩和の熱履歴依存性調査は予定通り進めることができなかったが、熱測定やTSDCによるガラス転移温度と水和タンパク質の関係に関する研究は予定以上の進展がみられ、研究成果を論文として発表できた。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ゼラチン水溶液の熱測定及びTSDC測定:これまでBSAやリゾチウムの球状タンパク質で得られた結果をゼラチン水溶液で得られる結果と比較し構造違いがもたらす影響を調べる。 (2)水和タンパク質の緩和が氷結溶液中で大きい理由、(3)タンパク質構造と不凍水量の関係:構造の異なるタンパク質水溶液を調べると同時に、より構造が単純な合成高分子の水溶液も用い、系統的な実験データーを得る。 (4)低温域で観測される緩和の熱履歴依存性:BSA水溶液を用いて実験を行うが、この問題が本研究で最も困難な課題であり現時点で解決策はない。考えうる可能な温度履歴条件を変えて実験し、違いが表れる条件を見つけ出す必要がある。
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