この研究課題で、研究代表看は生体分子における、量子効果が重要になると思われる振動ダイナミクスについての研究を行っている。すでにボストンやドイツの共同研究者たちといくつかの計算スキームを開発し、それを生体分子に応用しているが、それをより大きな系に対して行い、また生体内の反応を制御するために、レーザー光と結合した伏態でのダイナミクスまで記述することが目的である。大きな系に適用するためには、より精密な量子化学計算が不可欠であり、またレーザー制御の問題についても最適制御理論を用いることを予定しているので、それらを研究分担者とともに研究している。 今年度はまず精密な量子ダイナミクスのスキームとして、分子の階層(tier)モデルを生体分子に用いることを提案した。これはより大きな系を、古典近似や摂動論より精度よく記述する方法であり、これを生体分子に用いるのは世界でも初めてである。FortranコードとGaussianを組み合わせて行う、その実装はほぼ終了している。 また、2010年8月に振動分光に関するゴードン会議(メイン州、アメリカ)に参加し、Rubtsov教授(Tulane大学)と知り合うことで、このスキームを適用するのにPBN分子が適しているということが分かった。これはいくつかの特徴的な振動モードをもつ分子であり、それらのモード間のエネルギー移動に関するメカニズムの解明が待たれている。そこで現在はこの分子のポテンシャル面を量子化学計算し、振動ダイナミクスの予備計算を行った。それらの成果を物理学会などで報告し、紀要などにまとめた。
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