付着性の粉体を固めた擬固体(固形粉体)が破壊する際,破壊のパターンは粉体の粒径分布幅δに大きな影響を受ける。我々の研究によって,δを大きくすると破壊パターンが亀裂から粉砕へ変化するが,この変化がガラス転移と類似していることが明らかとなっている。この時,固形粉体のδは分子の温度Tと同じような役割を果たす。 δとTの類似性をより明確にみるため,粒度分布を持つ剛体気体のシミュレーションを行った。本年度は,昨年度作成した剛体粒子の厳密な衝突を扱うEvent Driven型MD法プログラムについて,衝突イベントの並列リスト処理と空間を微小セルに分解するFMMを組み合わせることで高速化を図り,計算速度を昨年度比で約10倍に上げることができた。 剛体気体を考えることによって,気体の状態方程式の上でTとδの関係を顕わに見ることができる。系の体積VとTを一定にして,δを大きくすると,系の圧力Pも大きくなった。これは分子の運動性が粒径の平均値のみならず分散にも影響されることを意味しており,気体の分子運動論からみても自明なことではない。δを大きくしたときのVW状態方程式からのずれは,Tの項にδに比例する項を加えることによって上手く補正できる。つまり,先のガラス転移との類推で得られたδとTに類似関係があるという予想と一致する。 ガラス転移の研究で使われている手法を用いて固形粉体におけるスローダイナミクスや動的不均一性の有無をみるために,固形粉体に微小な周期的剪断場を加えたときの粉体の微視的な運動性を調べた。これによって,亀裂領域(δ<δg)では自己中間散乱関数(SISF)の緩和はほとんど無かったが,粉砕領域(δ≧δg)ではガラス転移と同様の拡張型指数関数(KWW型)の遅い緩和がみられた。動的不均一性については,今回の系の大きさ,シミュレーション時間では明確には確認することができなかった。
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