本研究は、氷床深部のコアから高精度に地球の気候・環境変動情報を読み取るために、氷体の結晶組織、力学的性質等の氷床の内部構造・物性の詳細を知ることを目的に推進している。本年度は研究上、標準試料として必要となる単結晶氷の育成装置製作を中心に研究を進めた。育成装置は低温科学研究所技術部と共同で製作し、稼働を始めた。同時に力学試験の予備実験を開始し、実験条件の検討を行った。その結果、単純せん断試験についてはガスシリンダを用いているが、長時間一定荷重で精度よく試験を行うためにはガス圧の自動制御が不可欠であることが示された。制御装置導入し、予備実験を行った結果、一定荷重での試験が可能になった。また、申請者もメンバーとして参加しているNEEM計画(北グリーンランド氷床深層掘削計画、デンマーク中心の14カ国国際プロジェクト)については、2010年7月に岩盤に到達する2537m長のコアサンプルの掘削に成功した。掘削直後のこのサンプルについて、酸素同位体比を参考にサンプル申請し、認められた深度のサンプル提供を受けた。サンプルは空輸され、2011年3月に低温科学研究所の-50℃の低温室に保管した。今後、結晶組織解析、力学試験を行う予定である。さらに、申請者が開発したX線ラウエ法による氷コアサンプルの結晶方位解析装置を用いた研究では、ドイツのアルフレッド・ウェーゲナー極地海洋研究所との共同研究を進めた。その結果、結晶内に観察される亜結晶現界間のc軸、およびa軸方位角度差を精密に測定することに成功した。また、南極EDMLコアを用いた研究では亜結晶境界の分布と方位角度差を調べたが、その方位関係は主に3つのパターンに分類できることを見出した。これらのパターンは転位論的に解釈され、氷床の変形様式を考える上で重要な情報であることが示された。
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