研究課題/領域番号 |
22540426
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮本 淳 北海道大学, 低温科学研究所, 共同研究員 (00374645)
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キーワード | 氷 / 氷床コア / 結晶組織 / a軸方位 / 力学試験 / X線ラウエ法 |
研究概要 |
本研究は、氷床深部のコア試料や人工単結晶氷試料を用いた実験的研究から氷体の結晶組織、力学的性質等を明らかにし、氷床の内部構造・物性の詳細を知ることを目的に推進している。本年度は標準試料となる単結晶氷試料の作成と力学試験、さらに北グリーンランド氷床深層掘削計画により得られたNEEMコアの結晶組織解析を中心に研究を進めた。 単結晶氷試料の作成については、昨年度低温科学研究所技術部と共同で製作した育成装置の改良と実験条件の見直しを行った。新たに種氷を用いることにより、結晶方位を制御した試料の育成に成功し、力学試験に使用可能な試料を継続的に作成することが可能になった。また、この単結晶氷試料を使った力学試験を-15℃の温度条件下で行った。c軸が圧縮軸から45度傾くように一軸圧縮試験を行い、単結晶氷の基底面に最大分解せん断応力が働くように条件を設定した。その結果、変形量の大きいせん断変形部に粒径数mmの再結晶粒が発生した。それぞれの結晶軸方位を調べた結果c軸、a軸ともに揃った方位関係であることが明らかになった。この再結晶粒の方位は母結晶である元の単結晶氷の方位には一致せず、c軸はせん断面にほぼ鉛直で、ひとつのa軸が滑り方向にほぼ一致することもわかった。これは氷床深部のコアにおいて発見されているa軸方位分布を実験的に再現できたことを意味している。つまり、この特殊な結晶方位分布は、当初予想した通り、せん断変形により発達したものであることが示唆される。 昨年度提供を受けたNEEMコアについては、結晶組織をX線ラウエ法により調べた。その結果、深部のc軸方位が単極大型を示す深度において、a軸方位も揃っていることが確認された。このような分布は、グリーンランドGRIPコア、南極ドームふじコアなどの氷床深部の氷体に共通して見られた結晶方位分布であるが、NEEMコアにおいては初めての発見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度稼働を始めた単結晶氷育成装置で作成した試料が、たびたび多結晶になったり、気泡を含んだりすることがあり、本研究推進のための標準試料としては不適当であることがわかった。装置の改良と実験条件の見直しにより問題は解決したものの、予定していたその場観察可能な氷薄片試料変形装置の開発が遅れる結果となり、完成に至っていない。しかし、装置の原案はできており、急ぎ完成を目指している。また、ドームふじコア試料を用いた実験が遅れているが、これは掘削後時間が経過しておらず、体積緩和が進んでいないNEEMコアを用いた実験を優先しているためであり、ドームふじコアを用いなくても目的を達成することは可能である。
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今後の研究の推進方策 |
装置の開発や改良を優先してきたが、現状に至っては既存の装置でも目的の大部分は達成可能であるので、今後は実験を優先し、データの収集と蓄積を行っていくとともに、最終年度に向けて実験内容も吟味し、効率よく研究を推進することを目指す。使用するコア試料については、体積緩和など物理的に変質していないNEEMコアを用いた実験を優先していくが、まずは結晶組織解析を急ぎ、そのデータをもとに力学試験で用いる試料の選択を行っていく予定である。
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