本年度は、北グリーンランド氷床深層掘削計画により得られたNEEMコア試料の結晶方位の深さ分布測定、氷薄片試料変形装置の開発とそれを用いた変形実験を行い、以下の成果を得た。 NEEMコアの結晶方位については、426 mから2489 mまでの8深度のc、a軸方位分布をX線ラウエ法により詳細に調べた。最も浅部の間氷期にあたる426 mのc軸方位分布は弱い単極大型、間氷期と氷期の境界である1419 m以深では、単極大型を基本としながら、c軸分布が特定の方向に分散する、あるいは少数の結晶の方位が単極大の集中方向とは全く異なる方位に分布するなど、複雑な流動状態を反映したものであった。これらのc軸方位に対し、a軸方位に特徴的な分布が確認されたのは、深部2351 mのみであり、各結晶のa軸が同じ方向に揃う傾向が確認された。これらの結果より、数100 mの深さの範囲内で流動状態が大きく変化していることが示唆された。 氷薄片試料変形装置は、本年度完成し、変形実験とX線による結晶方位測定を同時に行うことが可能になった。単結晶氷試料とNEEMコア2489 mのコア試料を用いて-16℃で単純せん断変形実験を行い、以下の事実が明らかになった。①単結晶氷試料を用い、せん断方向とひとつのa軸方位が一致し、c軸方位はせん断方向に鉛直という設定で変形実験を行った結果、結晶方位の変化はなく、再結晶粒は確認されず、かつ均一に変形し、ひずみ量5%以降に変形速度が大きく加速した。②コア試料の変形実験の結果、c軸方位とせん断方向のなす角度が垂直から離れる結晶ほど、垂直に向かうよう結晶が回転した。一方、a軸方位については、単純せん断方向に揃うように回転することを予想したが、変化は確認できなかった。よって、a軸方位は単純せん断変形下で新しく核生成した再結晶粒の方位がせん断方向に揃うことで発達すると示唆される。
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