東北地方太平洋沖地震に関連する地殻変動に関して、以下の2点を明らかにした。まず第一に、東北地方太平洋沖地震の発生が事前に予測されていなかったことに関連して、明治時代以降の三角測量に基づく東北地方のひずみ分布に基線測量誤差に由来するスケール誤差が存在し、本来生じていたはずの東西短縮ひずみが見落とされていたことを指摘するとともに、この推論の妥当性を検証するため、当該基線の再測量を実施した。その結果、基線が1894年庄内地震により5ppm程度伸張していたことと整合的な結果が得られた。次に、東北地方の太平洋岸が地震前に5mm/年程度の速度で沈降していたにも関わらず地震時にも最大1m程度の沈降を生じたこと、その一方で長期的には僅かな隆起が見られることに関して、地殻変動サイクルのモデル計算を通して説明を試みた。その結果、マントルの粘性構造から決まる構造の緩和時間(100年程度)に対し、プレート境界浅部の地震発生間隔が十分長く、一方、プレート境界深部の地震発生間隔が十分短い場合、プレート間固着と粘性緩和との相互作用の結果として、観測データをすべて説明できることが明らかとなった。この結果は、単に東北地方の地殻変動を説明するだけではなく、陸域のデータからは推定が困難な沈み込みプレート境界浅部の固着状態に関して、沿岸部の上下変動データに基づいて推定が可能な場合があることを示している。北海道東部の太平洋沿岸では、過去100年間以上にわたって沈降が続いている一方で長期的には隆起が生じており、東北地方太平洋沖地震前の東北地方と同様な傾向が見られる。このことは、千島海溝のプレート境界浅部が長期間にわたって固着し、大地震を引き起こすポテンシャルを有していることを示唆すると考えられ、今後の地震活動に十分注意する必要がある。
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