研究概要 |
提案者らは、月周回衛星かぐやの分光データを用いて、月上部地殻が従来推定(82-92%)よりも、より斜長石に富んだ純粋な(ほぼ100%斜長石)岩石からなることを示した(Ohtake et al.,2009)。本研究では、発見された斜長石に富んだ純粋な岩石中に微少量含まれるFe,Mg含有鉱物のMg/Fe比の分布を月全球について求め、そのような斜長石に富んだ地殻の形成メカニズム(マグマオーシャンの固化過程)を調べる。同情報から、月の二分性の成因を明らかにするとともに、月マグマオーシャンの組成についても推定を行うことを目的とする。 今年度の研究ではまず、最も古い月地殻である月高地領域(全球)において、ほぼ100%斜長石からなる岩石が露出する場所を、月周回衛星かぐやにより取得したリモートセンシング手法による反射スペクトルデータを用いて同定した。次に、これら同定された各場所(主にクレータ中央丘)における露出地殻岩石中に含まれるFe,Mg含有鉱物(輝石)のMg/Fe比を求めるため、観測データに対してMGMと呼ばれるカーブフィッティングを実施し、可視~近赤外波長域反射スペクトルに見られる鉱物種・鉱物化学組成に特徴的な吸収形状の変化(Mg/Fe比が異なると吸収中心波長が変化する)を用いることを試みた。ただし、従来のMGM手法だけでは地殻物質中に含まれるFe,Mg含有鉱物(輝石)のMg/Fe比の定量化には課題があることが判明し(純粋な斜長岩の場合には鉱物量比の違いにより見た目の吸収中心も変化してしまうことから)、新たなアルゴリズムの開発が必要と解った。そのため、新たなアルゴリズム開発に向けて、既存反射スペクトル測定装置に改修を施した後に取得した地上分光データの取得・蓄積を行った。
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