研究課題/領域番号 |
22540443
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
大竹 真紀子 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (30373442)
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キーワード | 惑星起源・進化 / 惑星探査 / リモートセンシング / 地殻・マントル物質 / 岩石・鉱物・鉱床学 |
研究概要 |
提案者らは、月周回衛星かぐやの分光データを用いて、月上部地殻が従来推定(82-92%)よりも、より斜長石に富んだ純粋な(ほぼ100%斜長石)岩石からなることを示した(Ohtake et al.,2009)。本研究では、発見された斜長石に富んだ純粋な岩石中に微少量含まれるFe,Mg含有鉱物のMg/Fe比の分布を月全球について求め、そのような斜長石に富んだ地殻の形成メカニズム(マグマオーシャンの固化過程)を調べる。同情報から、月の二分性の成因を明らかにするとともに、月マグマオーシャンの組成についても推定を行うことを目的とする。 今年度の研究では、最も古い月地殻である月高地領域において、表層地殻岩石中に含まれるFe,Mg含有鉱物(輝石)のMg/Fe比の分布を求めた。具体的には、可視~近赤外波長域での月面反射スペクトルに見られる鉱物種・鉱物化学組成に特徴的な吸収形状の変化(Mg/Fe比が異なると吸収中心波長が変化する)を用い、地殻物質中に含まれるFe,Mg含有鉱物(輝石)のMg/Fe比を定量化するアルゴリズムを開発した。次にこのアルゴリズムを月周回衛星かぐやにより取得したリモートセンシング手法による反射スペクトルデータに適用し、月表層全球でのMg/Fe比を求めた。結果、月にはMg/Fe比についても二分性が見られ、裏側では表側よりも、より高いMg/Fe比を持つことが解った。このことは、月の裏側を形成する地殻が表側よりもより未分化な(初期の)マグマから結晶化した物質で成り立っていることを意味し、これは月地殻がマグマオーシャンからの非対称な固化過程により形成したことを示唆する。この事実は、月の二分性がマグマオーシャンの固化過程に関係していることを示す、初めての直接的な証拠であるとともに、マグマオーシャンの初期組成が従来の推定よりもMgに富んでいた可能性も示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、2年目の年度内に表層地殻岩石中に含まれるFe,Mg含有鉱物(輝石)のMg/Fe比の分布を求め、そこから月の二分性の成因および月マグマオーシャンの組成に関する考察を行うところまで達成できており、その成果を学会誌に投稿中であることから、おおむね予定どおりの成果あげられている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度までに求めた月表層の情報に加えて、地殻内部の垂直方向での地殻化学組成(斜長岩中の斜長石とFe,Mg含有鉱物の量比)とFe,Mg含有鉱物のFe/Mg比の変化有無とその傾向を調べる。その上で、昨年度までに求めた月表層でのFe,Mg含有鉱物のFe/Mg比の分布と合わせ、観測された地殻の水平・垂直分布を作り出すような地殻形成メカニズム(マグマオーシャンの固化メカニズム)について、出発物質となる月マグマオーシャンのバルク組成をパラメータとして変化させ、その後の地殻形成過程をモデリングすることにより、具体的・定量的に推定する。
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