研究概要 |
提案者らは、月周回衛星かぐやの分光データを用いて、月上部地殻が従来推定よりも、より斜長石に富んだ純粋な(ほぼ100%斜長石)岩石からなることを示した(Ohtake et al., 2009)。本研究では、発見された斜長石に富んだ純粋な岩石中に微少量含まれるFe,Mg含有鉱物のMg/Fe比の分布を月全球について求め、そのような斜長石に富んだ地殻の形成メカニズム(マグマオーシャンの固化過程)を調べる。また同情報から月の二分性の成因を明らかにし、月マグマオーシャンの組成についても推定を行うことを目的とする。 昨年度までに、月周回衛星かぐやにより取得した反射スペクトルデータに対し、本研究で開発した新しいアルゴリズムを用い、最も古い月地殻である月高地領域において、表層地殻岩石中に含まれるFe,Mg含有鉱物(輝石)のMg/Fe比の分布を求めた。結果、月にはMg/Fe比においても二分性があり、裏側では表側よりもより高いMg/Fe比を持つ事が解った。これは、月裏側を形成する地殻が表側よりも未分化な(初期の)マグマから結晶化した物質で成り立つ事を意味し、月地殻がマグマオーシャンからの非対称な固化過程により形成したことを示唆する(Ohtake et al., 2012)。今年度は、これまでに求めた月表層情報に加え、地殻内部の垂直方向での地殻化学組成(斜長岩中の斜長石とFe,Mg含有鉱物の量比)の変化有無とその傾向を調べた。結果、高地地殻は深部ほどFe,Mg含有鉱物がより乏しく、またMg/Fe比はよりMgに富む事が解った。この事は、マグマオーシャンから浮上した斜長岩が集積して地殻を形成し、新しく形成した地殻岩石は先にできた地殻の下部に付加すると考えられた従来の地殻進化のモデルでは説明つかず、昨年度示した水平方向の地殻形成の二分性に加えて、深さ方向にも地殻形成モデルの修正が必要な事を示唆する。
|