本年度の研究では、上空の寒冷渦が寒気内低気圧に与える影響を調べるために、メソ気象モデルを用いた理想化実験を行い、寒気内低気圧の発生・発達をシミュレートした。この理想化実験によって具体的に得られた結果は以下のようにまとめられる。 1.対流圏内での鉛直シアーや温位勾配を一様にし、上空に与える寒冷渦の形状を解析関数で与えるという非常に単純化した設定でも、寒気内低気圧が発生・発達する様子をシミュレートすることに成功した。これまで南北温度勾配を持つ傾圧場内では、コンマ型の雲域を持つ小低気圧が発達することが示唆されてきたが、このように単純化した基本場と初期擾乱を与えた再現実験が、寒気内低気圧の発達を調べる条件設定として妥当なものであることが示された。 2.簡単化したモデルの中で発生した低気圧の鉛直構造を詳細に調べた。その結果、モデルで再現された低気圧は、基本的には下層の擾乱と上層の渦とのカップリングによって傾圧的に発達する低気圧に特徴的な鉛直構造を持っていることがわかった。 3.初期擾乱として上空にしか渦を置かない設定でも地表面付近に擾乱が発生し、低気圧が発達することがわかった。これまでの研究では、上空の渦が進行する前方に下層擾乱を置いた時に低気圧が発達するというシミュレーション結果に基づいて、上層の渦と下層擾乱の東西方向の位置関係のずれが、低気圧が発達するための条件であるとされてきたが、初期には上空の渦が存在するだけでも、しかるべき位置に下層の擾乱が発生してそこから低気圧が発達し得ることが示された。
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